−学会としてのありかた再考のとき−

第29代理事長(2025~2027年期) 川島 真

 アジア政経学会は2023年に創立70周年を迎え、新たな門出を迎えました。1953年に創設された本学会は、戦後最も早く設立されたアジア関連学会の一つで、アジア研究では日本最大の学会です。アジアに関する地域研究を促進してその成果の普及を図ることを目的とし、研究対象地域は東アジア、東南アジア、南アジア、広域アジアに及び、政治、経済、法、歴史、社会、国際関係など社会科学の諸分野を包含します。創設以来、毎年数回の大会を開催し、学会誌『アジア研究』も創設翌年から現在まで続いています。
 そのアジア政経学会の28代理事長であられた清水一史先生が任期を残して急逝された後、理事長業務の代行を仰せつかりましたが、2025年6月の新理事会で理事長に選出されました。清水前理事長の遺志を引き継ぎ、微力ながら重責を果たしていく所存です。
しかし、学会を取り巻く状況は厳しいものがあります。会員は微減傾向にあります。若手研究者の全体数の減少もあるのかもしれませんが、そもそも果たして従来通りの活動で若手研究者の需要に応じられているのかという疑問があります。また、世界の学界を見ても、さまざまなディシプリンにおいて革新的な変化が生じており、それにいかに対応するのかという問題もあります。そして地域研究としてのアジア研究の拠点も次第にアジアへと移り、「アジアにおけるアジア研究」が重要となる中で、日本のアジア研究の立ち位置や方向性についての問題があります。
 他方で、アジア研究の重要性が国内外でますます高まっていることも確かです。アジア諸地域は世界の激動の焦点の一つであり、アジア地域の平和と安定の重要性が強く意識されています。また、急速な多文化社会化が進む日本において、アジアの人々との共存もまた切実な課題となっています。このような状況の下で、アジア各国の現状を多面的かつ長期的な視点から理解すること、アジアを地域として俯瞰的に把握することが強く求められています。そのことに鑑みれば、広域のアジアを対象とし、多様なディシプリンの専門家を擁する本学会の重要性は高まっているとも言えます。
 2025年からの二年間で、理事会、評議員会、そして会員の皆様とご相談しながら学会活動を進めたく存じますが、理事長に就任するにあたって以下のようなことを考えております。第一に、『アジア研究』について、国内データベースJ-STAGEおよび国際データベースEBSCOを通じて早期公開を実施してきましたが、2024年からその範囲を特集、書評などに拡大しました。それに伴って従来年4回発行であったものを年2回発行へと改めます(合併号という形態)。この新たな試みをソフトランディグさせることが必要です。また、若手研究者からの投稿を促進するため設けられた「アジア調査旅費助成制度」や、活発な議論が展開されることを企図して設けられた「『アジア研究』の特集号公募制度」を活用し、『アジア研究』への会員からの積極的な投稿を促していきたく思います。第二に、春季、秋季大会でさまざまな方法論的な、また前述の「アジアにおけるアジア研究」を意識したような共通論題や分科会を可能な範囲で設け、学会での議論を活発化させていくことができればと思っています。これは年に3回開催される定例研究会も同様です。これまでの形式にとらわれず、新たな形式が模索されればと希望しています。第三に、今後、従来通り樫山セミナーが実施できるかについては定かではありませんが、世界のアジア研究との対話を進め、国内でも他の学協会との協力をいっそう推進していくことが求められると考えます。第四に、70周年に際して多様な媒体を利用して発信を行ったように、ホームページやニューズレターとともに多様な媒体を通じた学会の活動の発信が大切と考えます。第五に若手研究者へのサポートの充実化も必要です。前述の「アジア調査旅費助成制度」や研究会活動だけでなく、若手研究者に活用される学会となるにはどうすればいいのかということも皆で考えていきたく思います。第六に、財務の健全化が強く求められています。デジタル化などによって経費の節約ができるところについては改善していくことが必要と思われます。
 アジア政経学会が会員の皆様の研究活動にとって有意義なプラットフォームになるよう、限られた時間ではありますが、努めてまいりたく思います。ご助言やご助力を頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

歴代理事挨拶