《ニューズレター22号》

学会ニュース

☆ 2004年度全国大会:来る10月30-31日両日東北大学大学院農学研究科(仙台市青葉区堤通雨宮町1-1)で開催されます。実行委員会の骨折りで共通論題2セッション,分科会6セッション、自由論題29報告の盛会となる見込みです。詳しいプログラムは実行委員会よりお手元に届きますが、現在確定しているプログラムの概略をお知らせ致します。

*第一日(9:30受付開始):午前(10:00-12:30):自由論題(論文多数のため題名など省略)
・午後(14:00-17:00):共通論題1「東アジア共同体の可能性」:1997年のアジア通貨危機以来、地域主義の傾向が強まり、ASEANプラス日中韓(10+3)を東アジアと呼ぶことが定着しつつある。FTA等で東アジアは急速にグローバル化する一方で、政治面の壁は依然として高い。東アジア共同体は可能か、その行方を探る。パネリスト:宮川真喜雄、小島朋之、鈴木裕司、深川由起子;司会毛里和子。
・共通論題2「東南アジアの都市化と居住コミュニティの変容−インドネシアの事例」:日本との比較を念頭においてジャカルタ首都圏郊外の新興住宅地のコミュニティ、ジャカルタの隣組、ジャワの農村を分析する。郊外−都市−農村をワンセットにつないで日本と比較しながらインドネシアを論じ、21世紀のアジアのコミュニティ像を検討する。パネリスト:加納啓良「ジャカルタと東京−郊外地域の形成とその歴史的意味」、吉原直樹「ジャカルタにおける地域コミュニティの布置構成と制度的再編の動向――日本のミュニティ/町内会の動向を見据えながら」、 大鎌邦雄「インドネシアの地方自治改革と農村コミュニティ−日本の地方行政システムとの比較」;司会兼討論 北原淳。
・その他、会員総会(17:00-17:30)、懇親会(17:30-19:30)
・なお、昼休みに理事会が開かれます。

*第二日(9:00受付開始):午前(9:30-12:00):
・分科会1「東アジアに於ける選挙政治」(渡邊剛「台湾の選挙政治−民主化・政権交代と権威主義の遺産」、岡本正明「インドネシアの選挙政治−大統領直接選挙制導入に伴う政党政治変容」、中村正志「マレーシアにおける選挙の政治統合機能」、黒柳米司、司会山本信人)
・分科会2「中国共産党の現段階」(菱田雅晴「世界最大の既得権益集団−党を如何に捉えるべきか」、川井伸一「コーポレート・ガバナンスからみた中国共産党」、諏訪一幸「幹部管理政策の現状と展望」、討論小嶋華津子、司会兼討論西村成雄)
・分科会3「アジアの森林問題」(谷祐可子「ミャンマーにおける森林減少と人々の法意識:バゴー山地における開墾を例として」、関良基「中国の退耕還林をめぐるポリティカル・エコロジー −政府の論理と農民の論理−」、加藤学「インドネシアの森林消失と林業改革:資源レント配分の変化とインセンティブ」、討論横山繁樹、司会工藤昭彦)

・午後(13:00-15:00):
分科会4(英語分科会)”After the Crisis” (鳥居高、本名純、パスーク・ポンパイチット、パトリシオ・アビナーレス、司会片山裕)
分科会5「現代アジアの構造変容と新しい文化的不平等」(東北大学大学院文学研究科COE「社会階層と不平等」と共催)(川口幸大「現代中国の文化的階層に関する研究−珠江デルタにおける宗族組織、葬送儀礼、年中行事の事例から」、菱山宏輔「インドネシアの都市コミュニティにおける文化的不平等」、謝桂華“Transition of Urban Labor Market in China”、討論石田浩他、司会佐藤嘉倫)
分科会6「アジアの開発と環境問題――国際協力の視野から」(東北大学学際科学国際高等教育センタープロジェクト研究「中国におけるCDM普及に向けての学際的研究」と共催)、(張興和「中国山西省の石炭・鉄鋼産業による環境汚染と日中技術協力の可能性」、石井敦「北朝鮮と地球温暖化問題:日本とのCDMを実施するための予備的考察」、寺尾忠能「産業公害対策における『日本の経験』と途上国の経済開発」、討論相川泰、司会川端望)

*実行委員会からのお知らせ:今年度試験的にプログラム(交通・宿舎案内を含む)はe-mailアドレスを事務局に届けてある会員にはe-mailで送られます。そうでない会員は例年どおりです。なお、プログラム発送時に学会事務局が案内電子化についてのアンケート調査を実施しますので何とぞご協力をお願い致します。
・事前に実行委員会に寄せられた報告論文などは、学会ホームページ(http://www.jaas.or.jp/)に掲載されます。ダウンロードの際には、ID,パスワードが必要になります。
・ホームページにはその他プログラムの変更などが随時掲載されますので、ご参照下さい。
・宿舎案内の一覧表を最終頁に掲載しました。大会当日は観光シーズンですので早めの予約をお勧めします。
・事務局連絡先は次の通りです:冬木勝仁 東北大学大学院農学研究科(〒981-8555 仙台市青葉区堤通雨宮町1-1、пF022-717-8666(直通)、e-mail:fuyuki@bios.tohoku.ac.jp

☆今年度「アジア政経学会優秀論文賞」決まる:同賞選考委員会(委員長上原一慶会員)の推薦に基づき9月11日の常務理事会にて『アジア研究』第49巻第4号掲載の倉田徹会員「『一国二制度』下の中国−香港関係」に授与することを決定しました。
第二回 アジア政経学会優秀論文賞 選考結果について

☆2005年度全国大会:島根県立大学で開催されることが決まりました。東日本、西日本大会については、常務理事会にて検討中です。


東日本大会開かる


☆今年も東日本大会が、5月29日城西国際大学にて開催されました。参加された会員による参加記を掲載します。なお、事情により一部参加記掲載不能になったことをお詫びしたい。

第1分科会:海峡両岸の産業と企業     朱炎(富士通総研)
 第1の報告は、アジア経済研究所佐藤幸人の「潘文淵『ICプロジェクト 中華民 国工 業化の実験例』を読み解く」である。70年代、台湾の半導体産業を立ち上げたプ ロ ジェクトの立案者である在米技術者の潘氏が編集した文献に基づいて、ICプロジ ェクトの経緯、技術の選定、実施体制、技術導入先の選定などに通じて、政策決定の プロセスを検討した。歴史の側面で台湾の半導体産業に関する研究として、とっても ユニークな手法である。佐藤氏の報告に対して、参加者は、このICプロジェクトと台湾の半導体産業の発展との関係、当時の技術の選定とその後の半導体産業への影響、プロジェクトの政策決定における政治関係、IC産業の政策決定プロセスと他の産業との 類似性、などの問題についてディスカッションした。
 第2の報告は、城西国際大学の小渕究の「再国際化の中国会計へ向けて」である。中国の現行会計制度と国際会計基準との比較や、中国の会計制度の歴史と周辺国 への影響(外向けの国際化)、近年の国際基準に合わせた会計制度の改革(内向けの 国際化、再国際化)などを検討した。とくに、中国の会計は、制度的にはすでに国際化が進んでいるが、問題は実施にあると指摘したことは、印象的である。小渕氏の報告に対して、参加者は、国際化の意味と国際化の進展、会計関連の法整備、制度と実態の乖離とその原因、会計に関する監督体制、などについて検討した。>

第2分科会 環境問題と安全保障    高原明生(立教大学)
 昨今では安全保障問題を広くとらえ、国防・軍事のみならずテロや海賊、麻薬、人身売買などいわゆる非伝統的な安全保障に対する脅威、さらには経済、エネルギー、食糧、環境などの問題を含めた総合安全保障の観点から議論が行われることが多い。第2分科会では、淮河及び太湖の水汚染をめぐる興津会員の報告と、アジア太平洋地域の安保協力に中国が積極化した原因に関する勝間田会員の報告が行われ、活発な討論が繰り広げられた。
興津報告に対しては、麦や葦などを原材料とした紙パルプ工場についての評価や汚水による被害についての質問が出されたほか、中国側が公開発表した資料に関する調査はよく行われているものの、その分析が今後の課題ではないかというコメントも投げかけられた。また勝間田報告については、リアリスト、ネオリベラル、コンストラクティビストの三者による説明を比較考量するという手法に対し、そもそも中国外交を説明するための概念でないものを適用することの有効性などについて説明が求められた。
いずれの報告も中国の政策を対象とするものであったが、政策過程分析の観点が足らなかったために、アクターとその利益、思考や目的をとらえきれていない嫌いがあったのは否めないだろう。しかし、産みの苦しみを経て、それぞれの意欲的なリサーチからシャープな問題提起と明快なアプローチが提示されることを十分に期待していいだろう。

第3分科会 産業と経済    沢田ゆかり(東京外国語大学)
孫根志華「中国電子商取引の発展と現状及今後の展望」:急成長する中国のインターネット商取引に関して、報告者はCNNICの調査を中心に、(1)利用目的のうち、ネット・ショッピングの割合は0.2〜0.3%に過ぎず、個人による電子商取引は浸透していない、(2)その理由は、品質、サービス、セキュリティが成熟していないためで、この克服には(3)ネット取引に関わる決済と物流の整備が急務であり、日本の経済協力が有意義であると報告した。
コメンテーターは、ネット人口と商取引が沿海大都市部に集中していることから、ネット取引の成長は地域間の経済格差を加速させるのではないか、という指摘があった。フロアからは、(1)流通産業の一環として分析するなら、個人ユーザーよりも企業間取引(B to B)を対象とすべき、(2)独裁政権下での情報統制が商取引の妨げになるか否か、(3)CNNICのデータ収集方法など質問とコメントが寄せられた。
発表者は(1)B to Bのデータが入手困難なため本報告は個人ユーザーの分析にとどまったが、中国の企業経営者はB to Bに抵抗がなく将来の拡大が予見される、(2)大都市では政府の情報統制は効かなくなりつつある、(3)CNNICは6年前から大都市圏のユーザーを対象にしたネット・アンケートでデータを収集している、と答えた。フロアとの質疑応答では、ネット取引が盛んになっても実際に消費者が商品を買うのはface to faceの市場ではないかとの指摘があった。

第4分科会 基層における政治        中岡まり(常磐大学)
本分科会では、「基層のおける政治」をテーマに、建国初期の中国を扱う鄭浩瀾の報告「建国初期の中国における農民協会の「整頓」:1949~1952」と現在のインドを扱う北川将之の報告「インドの村議会における無投票選挙の背景」の二つの報告が行われた。鄭報告は、土地改革が農村社会の権力構造に与えた影響について、江西省で詳細な調査を行った独自性の高い報告で、農村社会の「封建性」が国家が求めた「反封建性」によって消滅させられることなく存在し続けた点を指摘し、支配構造は変化しなかったと結論付けた。これに対して、イデオロギー性を持つ「封建・反封建」という語句の扱いや宗族の影響、江西省の特殊性に留意すべきである、何を変数として権力構造を規定するのか明確にすべきとの議論があった。北川報告は、インドのカルナータカ州での調査に基づく、鄭報告同様オリジナリティーある報告で、村議会選挙における無投票選挙のパターンを類型化し、市民の政治意識が無投票選挙発生に重要な役割を果たすと指摘した。報告に対しては、民主化の発展を計るのに敢えて無投票選挙を取り上げる意味について問う議論があった。
両報告は、農村において農民が如何に組織化されうるのか、農民協会や選挙といった外部(或いは上層)から持ち込まれる制度は農村社会の構造に変化をもたらすのか否か、という問題意識を共有しており、フロアも含めて活発な議論が行われた。

共通論題U 東アジアの中の日中関係――協調と対立の構造

共通論題U ジェンダーの視点からみたアジア女性の労働と移動
 柳下真知子(城西国際大学)
アジア政経学会東日本部大会の主催校、城西国際大学では、1992年の開学以来、女性学を重要な研究分野と位置づけ、全国に先駆けて大学院に女性学専攻を開設している。学部のカリキュラムにおいても、女性学関連の講座(28科目)開講し、学生たちは卒業するまでに何らかの女性学関連の授業で(必須ではないながら)女性学に接する機会をもっている。そんなわけで、本大会で女性学関連のセッションを持つことになったが、学会における女性学やジェンダー研究に対する関心はどのようなものか、果たして多くの方に参加していただけるのかといった心配もあった。しかし、当日は考えていた以上の方々に参加いただき、報告後の質問・意見も活発だった。開始時間の変更もあり、懇親会出席予定の方々には、最後まで討論に参加していただけない不手際もあったが、懇親会の席上、参加された委員の方から、「アジア政経学会がついに女性学と出会う機会を得た」という言葉をいただいたと、後で伺って心配が杞憂に終わったことを嬉しく思った。
共通論題Uのタイトルは、「ジェンダーの視点からみたアジア女性の労働と移動」。人々の労働や移動のパターンは、その地域の社会経済構造を反映して多様であるが、特に女性の就業・移動パターン、およびその変容には、地域の文化、社会、制度が色濃く反映されている。アジアにおける大きな経済活動の中で、周辺化され一般的には見逃されがちな女性の労働に焦点をあて、そこにあらわれた性差をかたちづくる意識の再確認を通し、女性の労働活動をめぐる制約や経済構造を見直してゆく視点を示したいというのがセッションの狙いであった。第一の報告者は、中東のイスラーム社会を研究する白鴎大学の藤田純子氏。「中東イスラーム社会の女性の経済活動」と題して、中東イスラーム社会における、政府統計にあらわれるペイド・ワークとそこには表われないアンペイド・ワークについて、それらを形成している文化および社会経済構造を検証した。第二の報告者は、城西国際大学大学院比較文化研究科ジェンダー研究博士課程を修了し、現在中国の華南師範大学で教鞭をとる陸小媛氏。テーマは、陸氏が大学院時代を通して精力的に調査研究してきた「中国の農村女性の労働移動」。中国の労働市場で欠くことのできない存在となっている農村女性の出稼ぎ労働者の実態と意識、その社会・経済構造における位置について興味深いデータの数々が報告された。第三の報告者は、本大学院女性学専攻修士課程を今年修了した神山典子氏。「日本人「慰安婦」からみる「慰安婦」の主体的労働」と題し、日本の「慰安婦」問題をめぐる歴史的論議をとりあげ、そのなかにみる女性の「労働」のかたちをジェンダーの視点で丁寧に考察した。討論者には、途上国の女性、労働、人口移動に詳しい元日本貿易振興機構アジア経済研究所の早瀬保子氏を迎え、それぞれのテーマにそって、女性の経済活動をめぐる諸問題の捉え方を明らかにしてゆく研究態度を示し、セッションをまとめていただいた。
 


西日本大会開かる

☆今年度の西日本部会大会は、6月26日南山学で開催、実行委員会の骨折りで、無事終了しました。会員による参加記を掲載します。

分科会T ASEANの企業と文化           遠藤環(京都大学)
「分科会TASEANの企業と文化」では、林尚志会員による「日系メーカーアジア子会社における人材育成:“O型vs.□型”の育成のあり方をめぐって」、森澤恵子会員による「フィリピン電気産業における技術移転とローカル資本」、加納寛会員による「戦後期タイにおける文化政策の展開」の3本の報告が行われた。
第一報告では、日系メーカーのアジア子会社における人材育成方法に注目し、本来、「日本型システム」と、「現地の社会的環境」(もしくは、日本企業[○型]と外国企業[□型])の間にミスマッチが存在するため、各企業は、□型&○型の段階的融合をはかっているとの仮説が提示された。コメンテーターからは、各国の社会的制度的文脈と日本企業方式の親和性や、現地社会の側の反応、また各日系企業の採用している多様なモデルに関して、具体的な指摘・質問が行われた。
第二報告では、フィリピン電機産業における技術移転は、日系企業の企業内技術移転には一定の進展が見られる一方で、ローカル資本への技術移転は進んでいない点が指摘された。その上で、フィリピン電機産業がキャッチアップ型工業化をたどるのは難しく、連携発展型を模索することが重要であると指摘された。それに対して、パソコン産業の各サブセクターの特質と相違、企業内技術移転のローカルスタッフに対する実際の効果、連携型の将来性などに関して、指摘・質問が行われた。
第三報告では、戦後期タイの文化政策の政策立案過程と、制度・行政の変化を詳細に追いながら、1970年代の文化政策が、従来議論されてきたような国内事情によるものではなく、むしろユネスコ文化委員会を中心に、国際的潮流の文脈の中で生じたものであると指摘している。またその際に重視されたのが「文化アイデンティティ」概念であった。それに対して、政策立案の鍵となる人物を分析する重要性や、タイにおける「アイデンティティ」や「文化」の定義、現代の文化政策との相違についてコメントが出された。
全体としては、具体的な事例を交え、非常に活発な議論が行われた。

分科会U「米の対アジア政策」           浅野亮(同志社大学)
 アメリカの対アジア政策を統一テーマとしたこの分科会では、3つの報告が行われた。
 三船報告は、中東問題が米中関係、米中の安全保障戦略に与える影響を分析した。報告はエネルギーと軍事が絡み、さらに日米中台にイスラエル、パレスチナ、イランが二者間関係の束ではなく一つの枠組みの中で説明されるなど総合的な性格をもっていた。野口報告は、米中越の新資料に基づいて、米国のカンボジア和平構想の展開とその挫折を詳細に取り上げた。そこでは主に米国の政策決定者の持つイメージが大きく作用したことが明らかになった。金報告は、北朝鮮の核とミサイルの問題を主に6者協議の枠組みから俯瞰した。この報告は、第3回6者協議が午前に閉会して、その日の午後に報告という絶妙のタイミングで行われた。それぞれ、典拠を明示したフルペーパーが配布された。
 報告者が時間を守ってくれたおかげで、コメントと質疑応答には約1時間半を当てることができた。とりわけコメントを担当した南山大学の藤本博氏は、レジュメを用意して3人の報告に対してそれぞれ核心をつくコメントを行った。
フロアからは、米中関係とイラク戦争・中東問題との関連(米中のギブアンドテイクの中身、矛盾するイスラエル・パレスチナ・イラン・中国の関係など)6者協議の枠組みや性質(北朝鮮への圧力と改革開放の論理の関係、実質は6者といえるか、人権問題の扱いなど)など多岐にわたる質問が出た。

分科会V 中国経済         藤井大輔(神戸大学経済学研究科博士課程)
私が参加した中国経済分科会では、農業発展銀行のリスク管理、財政構造と地域格差、新疆の産業構造の変遷についての3報告がおこなわれた。
第1報告は、食料買付けを担う農業発展銀行の政策的な特殊性から生じたモラルハザードの問題とその改善策について、銀行発足時から体系的に整理された報告であった。これまであまり議論されていなかったという点と、今後も農業発展に大きな役割を果たすであろうこの銀行のあり方について議論されたことは非常に有意義であった。
第2報告は、税返還制度や予算外資金のために中央政府の分配調整能力の低く、そのために地帯間基本建設投資の格差が拡大、そして地帯間経済格差が生じたという流れの分析であった。報告者はこの3つの現象の流れについて一方向的な捉え方をしていたが、経済格差があるから結果的に中央の分配がうまくいっていないという逆の因果関係もありうる。今後は同時性分析を行うなどして因果関係の整理もしていただきたい。
第3報告は、産業連関分析の手法のひとつであるDPG分析を用いて1987年から1997年を2期間にわけて新疆において発展している産業の成長は、どのような需要要因によるものかを明らかにしていた。日本人研究者がアクセスの困難な新疆自治区レベルの産業連関表を用いているという点だけでも興味深い分析であり、さらに石油関連産業主導の成長への変化したことをはじめ、各産業の構造変動が非常に明確に導き出されていた。

分科会IV 中国社会                菱田雅晴(静岡県立大学)
 本分科会では、住宅金融、障害児教育そして人材市場に関する3報告が行なわれた。
 中岡深雪会員の「中国の住宅金融制度の現状と問題点ム上海の都市問題と関連付けて」は、住宅公積金制度のさまざまな欠陥から商業銀行住宅ローンに重点が遷りつつある中国の住宅金融制度を実態と行政の取り組み面から描き出したもので、住宅ブームの背景要因
、住宅価格の変動情況にも言及した上で、利用目的に応じた金利調整等バランスのとれた都市建設政策の必要性を訴えた。これに対し、金融面のみならず税制面からのアプローチも必要ではーという松戸庸子会員のコメントを皮きりに、賃貸料、キャピタルゲイン課税
、不動産契約の実態にも視点を拡げるべき等の指摘もなされ、中国の土地問題をめぐって、果たして上海が都市開発の成功例と看做し得るか否か等、幅広い討議が行なわれた。
 続いて、上海における「随班就読」(普通教育機構において障害児童・生徒に教育を実施する、learning in regular class)制度の導入をケーススタディとして障害児教育の現状を論じた真殿仁美会員の報告「中国の障害児教育:上海の事例を中心に」が行なわれた。これに対し、臨床心理学の立場から自閉症治療にも携わり、上海での現地経験も豊富な蔭山英順・名古屋大学教授から、コメントがあり、障害児教育をめぐる研究では、とりわけ制度面の内容と実態面とのギャップこそが問題であり、現実態への一層の目配りが必要ではとの指摘がなされた。また、一般的に、制度のモデルケース等では、軽度障害児が前面に打ち出されがちであり、しばしば重度障害児が等閑視されかねないが、果たして重度障害児は?あるいは、障害児教育の前後、すなわち就学前教育と卒後の職業教育は?といった問いもなされ、かつての「分離」教育からの脱却をめざした「統合」integration, inclusion教育の一環としての「随班就読」制度の位置付けをめぐる討論が行なわれた。
 休憩を挟んで最後に行なわれたのが、日野みどり会員報告「現代中国の人材市場」であった。これは、同会員の同名の著書(青土社、2004年)に基づき、高学歴の専門職、管理職および同予備軍としての大学新卒者の就転職に関する仲介施設(「人才市場」)の形成過程とその実態をコンパクトに報告するもので、背景に現代中国の社会変動を見出した上で、結論として、職業観、職業生活における新たな準拠モデルの構築の必要性を訴えた。コメンテーターの塚本隆敏会員から指摘のあった「徳才兼備」あるいは公平性、平等性の追求等「人才」概念の新たな展開等も踏まえて、現代中国における社会的流動性をめぐる討論が行なわれた。
 総じて活発な議論とはなったが、いわばそれぞれの個別報告をめぐる討議に終始した感もあり、分科会テーマとしての中国社会の全体像に迫るまでには至らなかった。司会の力量不足に拠るところ大ではあるが、例えば、今回の各報告から鮮明となった“社会弱勢”グループ(e.g. 住宅困窮者、健常者に対しての障害者、「人才」概念から外れるブルーカラー層、出稼ぎ農民)等の問題を提示して、フロア全体での積極的な討議を喚起しても良かったのでは、との思いも残った。また、事前にフルペーパーがネット上で公開されていることを考え併せると、報告はパワーポイントの使用等で極力コンパクトに抑え、ヨリ多くの時間を全体討論に費やすべきとの感も強くしたが、併せて反省点としたい。

分科会X シンガポール研究の現在        須藤季夫(南山大学)
分科会X(シンガポール研究の現在)では、奥村みさ会員(中京大学)による「都市国家における心象風景」が都市開発における文化遺産の保護政策に関する事例研究を報告し、増田あけみ会員(名古屋学院大学)による「多文化主義オーストラリアと多民族主義シンガポール」は中国語教育に関するシンガポールとオーストラリアとの比較研究の成果を報告し、田村慶子会員(北九州大学)による「シンガポールにおけるジェンダーの主流化とNGO」は、保守的なシンガポール社会における女性運動の展開を報告した。これらの実証研究に対して、コメンテーターの田中恭子会員(南山大学)から適切なコメントがなされた。特に、第一報告に対しては、植民地時代の文化政策と今日の文化遺産保存政策の関連性について、第二の報告に関しては、オーストラリアにおける中国語教育とシンガポールにおける中国語教育の関連性の問題、そして第三の報告に対しては、シンガポールの政治社会の特殊性(保守性)とジェンダーの主流化の可能性についてである。会場からも三報告者に対する多くの質問が出され、活発な議論が行われた。包括的に言えば、日本におけるシンガポール研究の深さを示す分科会であった。


新入会員自己紹介(順不動)
石川耕三(東京大学大学院経済学研究科現代経済専攻博士課程)
 私は、東南・東アジア地域における、銀行中心の金融システムと政府の産業政策との関係、それらの経済発展に対する役割について関心を持っております。2004年1月には修士論文を『スハルト政権下の金融システム――「金融自由化」を中心とする考察』として提出しました。1980年代インドネシアにおける金融自由化の前提条件として、スハルト政権前半期の銀行中心の金融システムを、スカルノ政権期との「連続」と「断絶」に着目しながら考察しました。今後は、一方ではインドネシアの事例研究をさらに深めるべく国営銀行や日系進出銀行の資料収集を行い、他方では他のアジア諸国との比較や各国横断的理論枠組みを構築すべく、他国の金融システムの研究にも目を向けて行きたいと思っております。私自身の既往の研究の見直しと、今後の研究方向の模索に関して、会員の皆様との交流から学ぶことができたらと思っております。よろしくお願いいたします。

上田清之
 本年度よりアジア政経学会に参加いたします、中央大学大学大学院経済学研究科の上田清之と申します。大学院においての私の研究課題は中国の比較優位構造の分析です。この学会において多くの諸先輩の方々から教えを請い、刺激を受けながら成長していきたいと思います。よろしくお願いいたします。

金野純 (一橋大学大学院社会学研究科博士後期)
現在の研究テーマは現代中国社会における政治動員と大衆運動です。社会主義体制下の中国で繰り返しおこなわれたこうした運動は、人々が生きる日常の生活世界にどのような影響を与えたのか、また共産党の政治的戦略においてどのような意味・役割をもっていたのか、これらの問題を最終的には、文革との連関のなかで歴史社会学的に考察していきたいと考えています。日本のアジア研究をリードされている貴会で、様々な新しい研究成果を伺い、摂取していけたらと期待しております。

孔麗  (北海学園北見大学)
 中国研究の大先輩である丸川知雄先生のご紹介で、歴史と実績のあるアジア政経学会に入会させていただき、大変光栄に存じます。
これまで、経済政策と関連づけながら、中国における製造業と農業の発展過程と現状について、現地調査に基づく実証的研究を進めて参りましたが、中国経済が急速な発展を遂げた今日、世界の中での中国とりわけアジア地域という枠組みの中で、中国経済のシステムのあり方を改めて考え直す時期にきていることを痛感しております。
アジア政経学会には優れた研究者が集まっておりますので、会員の皆様から多くを学び、そして積極的な学会活動を通して、中国経済のシステムをアジア全体の中でどう調和させていくかを模索していきたいと考えております。また、研究者としての人格形成にも努めて参りますので、諸先輩の皆様のご指導、ご支援をよろしくお願い申し上げます。

野間修  (宮崎公立大学・参事、みやぎん経済研究所・客員研究員)
 この度、本学会に加盟させて頂くことになり、非常に嬉しく、光栄に存じております。私は現在、宮崎公立大学(宮崎市内)で研究職の立場にありますが、一昨年まで30年近くにわたり旧・大蔵省国際金融局(霞ヶ関)に勤務し、この間、国際収支、対中円借款などのODA、国際通貨基金などの仕事を担当いたしました。さらに、霞ヶ関での最後の2年間は、客員研究員としてシンガポール国立大学に滞在し、台頭する中国経済をASEANやアジアNIEsの視点から研究するという経験も積むことができました。
 私は、上述のような職歴や研究歴を踏まえて、日・米・東アジア各国(中国など)の国際収支(外貨準備)状況や各国間の国際資金フローの状況、及びアジア通貨危機、人民元の為替レートなどの分野に関して、今後も引き続き研究して参りたいと考えております。
 本学会の皆様から多くを学ばせて頂きたいと願うと同時に、私自身も皆様に僅かながらでも貢献ができれば、と願っております。どうかよろしくお願いいたします。
 
藤森梓
この度、アジア政経学会に入会させていただくことになりました、同志社大学大学院経済学研究科の藤森と申します。私は、主に経済学のツールを用いて、アジア経済の分析を行っております。修士論文では、サブサハラ地域におけるFDI導入を通した経済発展の可能性について、実証分析を行いました。以後、グローバル化は、いわゆる第三世界と呼ばれる地域の経済構造にどのように変化をもたらすのかという大きなテーマのもと、計量分析を中心に研究を続けております。最近は特に、中国の台頭が他の途上国の経済に与える影響について、貿易・直接投資の面から分析を行っております。
学会では、会員の皆様との議論・意見交換を通してアジア研究の発展に少しでも貢献することができればと考えております。何卒、よろしくお願い申し上げます。

坊野成寛             (立命館大学政策科学研究科博士後期課程)
この度、新会員に加えていただきました坊野と申します。修士課程の頃から、貴学会の報告を聴講しておりましたが、この度、会員になれたことを嬉しく思っております。
専門は国際関係論ですが、現在は金融経済を専門とする指導教官の下、勉強しております。テーマとしては、アジアにおける地域主義に関心をもっております。地域主義の空白地帯と呼ばれたアジアにおいて、APEC、ASEAN+3をはじめとして、なぜ地域主義が流行し始めたのか。一方で、一つの機構へ収斂されないのはなぜか。結果として地域主義は根付いていくのか。アジアに地域主義は必要なのか、ということを政治、経済の両面からアプローチしていこうと考えております。まだまだ、勉強不足ですが、貴学会の活動を通して研鑽を積みたいと思っております。
ご指導ご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

三澤真美恵   (早稲田大学演劇博物館21世紀COE事業 客員研究助手)
現在の研究テーマは「植民地期台湾出身の映画人」です。本学会への入会を契機として、現在のアジア映画全般についても理解を深めていきたいと考えています。
なにとぞよろしくご指導ご鞭撻のほどお願い申し上げます。
関心領域:台湾近現代史、映画史

山崎(吉田)陽介
 私は山崎(吉田)陽介と申します。学部・修士課程のときは、福井県立大学で凌星光教授の指導の下で、中国とソ連の経済について学習、研究しました。その中で、私自身、社会主義に対する関心が高まり、中国社会主義の研究を志して中国に渡りました。語学研修を経て、中国人民大学国際関係学院の博士課程に入学しました。専攻は国際共産主義運動で、同学院院長の指導の下、『1956-66年における日中両国共産党関係』というテーマで研究を行っています。
 日本共産党と中国共産党は1920年代以来、社会主義路線を堅持する党として比較的良好な関係を保ってきました。しかし、1950-60年代における国際共産主義運動の論争の影響を受け、日中両党はいくつかの理論問題で見解の食い違いが見られました。1966年に両党は、ベトナム援助のための反帝国際統一戦線問題で決定的な食い違いが生じ、両党関係は断絶するに至ったのです。それ以降、以前から共産党が関与していた日中友好活動は変質していきました。その意味で、国際共産主義運動の論争が激しかった1956年から66年の十年間は、日中両共産党関係にとって、友好から敵対への転換点であったというのが、私の問題意識です。
 本研究を中国で発表する場合は、私自身の専攻が国際共産主義運動であるため、理論面に重きを置くつもりでおります。なお、日本で発表する場合は、当時の日中関係における共産党の地位という点を強調したいと思います。
 現在、日本では国際共産主義運動の研究は下火でありますが、当時の国際共産主義運動の問題点を総括し、新しい社会主義の発展の可能性を考えることは意義のあることであると考えますが、自身の研究の社会的貢献などを考え、私自身、日中の政治経済問題をも研究範囲のひとつに入れようと考えてます。私は当学会において、日本における対中国、東アジア関係の研究に注目、フォローすると同時に、中国における日中関係等の問題について何らかの形で発表したいと考えてます。
 
羅京洙      (早稲田大学大学院アジア太平洋研究科博士後期課程)
このたび、入会いたしました羅京洙(ラ・キョンス)です。専攻は国際関係学ですが、その中でも、「ヒトの国際移動」問題を中心に、朝鮮半島をその地理的かつエスニックな基盤とするコリアンの海外移動(史)や様々な越境ネットワークの構造などを研究しています。昨年『コリアン・ディアスポラの国際史的考察』(早稲田大学、2003年)をテーマとする修士論文を執筆しました。今後は、皆様との知的交流を多く持ちながら、学会の活動にも積極的に参加して参りたいと思います。よろしく御願い致します。

 


アジア政経学会ニュースレターNO.22    2004年9月24日発行
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