学会ニュース
☆ 2003年度全国大会:実行委員会案が次のように固まりました。ただし、まだ若干の変更がある見込みですのでご留意ください。
*11月8日(土) 午前の部 自由論題の研究分科会(できれば分科会6つの予定です)
<11月8日 昼 理事会>
*11月8日(土) 午後の部 記念国際シンポジウム (担当 国分良成)
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午後1時〜午後5時(報告20分×6名、途中休憩15-20分、3時30分から5時まで討論)
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テーマ「2001年9月テロ事件以後、アジアはアメリカをどうみているか?」
2001年9月テロ事件以後、イラク問題、中東問題、北東アジア問題など、世界情勢は大きく変動しつつある。こうした変動の中心にあるのは、いうまでもなく「アメリカ」であり、冷戦体制終焉後の世界でイニシアチブをとっているのもアメリカである。アジア諸国はアメリカをいま、どう見ているのか。一方、アメリカはアジアをどう見ているのか。そして、日本はアメリカとアジアにどのように係わろうとしているのか。日本を含む6カ国から気鋭の研究者を招待して、記念シンポジウムを開催します。
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出席者(未確定の部分もあります)
1)日本 五百旗頭真(神戸大学)
2)アメリカ John Ikenberry (Georgetown University)
3)マレーシア K.S. Jomo(マラヤ大学)
4)パキスタン Mohammad Waseem(Quaed-i-Azam University)
5)韓国 文正仁(Moon Chung-In, 延世大学)
6)中国 王緝思(Wang Jisi, 中国社会科学院米国研究所)
* 司会 田中明彦(東京大学東洋文化研究所)
*11月8日(夜) 記念式典、パーティ (学術総合センター隣接の施設にて)
*11月9日(日) 午前の部 共通論題の研究分科会
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午前9時受付開始。午前9時半〜午後12時10分(報告30分×3名、コメント15分×2名、討論40分)
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4つの分科会とテーマの設定:
1)アジアの「民主体制」をどうみるか(担当 広瀬崇子、末廣昭)
韓国、台湾、フィリピン、タイなどでは1980年代後半から90年代初めまでに「民主化運動」が生じた。この民主化運動や市民運動に関する議論はこれまで結構なされているが、民主化運動以降、あるいはアジア通貨危機以後生まれた政治体制をどう捉えたらよいのか、じつは明確でない。ラテンアメリカでは「委任民主主義論」が展開されているが、東アジアではどのように考えたらよいのか。中国、南アジアなども射程に入れながら議論する。
・司会 西村成雄(大阪外国語大学)
・パネリスト:小此木政夫(慶應義塾大学):「韓国の視点から」
佐藤幸人(アジア経済研究所):「台湾の視点から」
白石隆(京都大学):「東南アジアの視点から」
・コメンテーター:藤原帰一(東京大学法学部):全般
広瀬崇子(大東文化大学):南アジアの視点から
2) 「地域協力」の政治経済学(担当 末廣昭)
1997年の通貨・金融危機を契機に、アジア地域では日本の積極的な経済復興のための関与もあって、「ASEAN」「ASEAN+3」の枠組みに関心が集まった。その一方、日本、中国、アメリカ、インドなどは独自にASEAN加盟国との経済連携強化の動きを開始し、それとは別に、「ACD」(Asian
Cooperation
Dialogue)といった新たな枠組みも生じている。このセッションでは、国際通貨・国際金融の安定化、アジア債券市場の共同開発、アジア自由貿易協定(FTA)への取り組み、ASEANの新たな動きについて、政治、経済の双方から接近を試みる。
・司会 未定
・パネリスト:浦田秀次郎(早稲田大学):「アジアFTAの現状と展望」
河合正弘(元世界銀行チーフエコノミスト:財務省国際金融担当):「アジア金融・通貨基金の可能性」
清水一史(九州大学):「ASEANの経済統合」
・コメンテーター:須藤季夫(南山大学、ASEANの地域協力の観点から)
伊藤剛(明治大学、 東アジアの安全保障と地域協力の観点から)
3) Innovative East Asia と情報革命(担当 丸川知雄)
世界銀行は2002年以降、アジア諸国の国際競争力の回復と持続的な発展のひとつの重要な戦略として、資源動員型の発展ではなく、情報通信技術(ICT)を活用し、ネットワーク化する企業のクラスターの形成を重視する「Innovative
East
Asia」論を展開している。こうした「革新」(イノベーション)をベースとする新たな発展の中心に位置するのが、「IT革命」とアジア諸国にIT産業の発展である。中国、東南アジア諸国、インドのIT革命の実態を紹介しつつ、アジアの経済と産業がどういう方向に向かっているのかを検討する。
・司会 交渉中
・パネリスト:大木登志枝(日本総研環太平洋センター):「アジアのIT革命」
佐々木智弘(アジア経済研究所):「中国の電気通信と政府規制」
近藤正規(国際基督教大学):「インドのIT」
・コメンテーター:鈴木実(関西学院大学)
シュレスタ(甲南大学、東京大学先端科学研究所)
4)アジア農業問題の50年とWTO (担当 田嶋俊雄)
中国のWTO加盟に伴い、アジア諸国の農業は新たな段階を迎えるに至った。また、日本や中国がASEAN加盟国などと進めている経済連携強化の動きのなかで、政治的摩擦を引き起こしているのが、各国の農業問題である。日本ではコメ問題の「棚上げ」、農業問題に対する慎重な対応論が浮上する一方、中国は「アーリーハーベスト」方式で、できるところから農産物貿易の自由化も図っていくという柔軟な提案がなされている。このセッションでは、アジアの経済発展の基本問題である「農業問題の50年」を総括することを意図し、「ラデンジスキーとアジア農業の50年」「韓国の農業」「中国の農業」などをテーマとして取り上げ、同時に東南アジアや南アジアの研究者からコメントを受ける予定である。
・司会:田嶋俊雄(東京大学)
・パネリスト:菊池真夫(千葉大学):「ラデジンスキーとアジア農業の50年」
倉持和雄(横浜市立大学):「韓国の農業50年」
池上彰英(明治大学):「中国の農業とWTO」
・コメンテーター:藤田幸一(京都大学東南アジア研究センター)
岩本純明(東京大学)
<11月9日 昼食・常務理事会(午後12時10分〜午後1時10分)>
<11月9日 会員総会(午後1時10分から1時半30分)>
* 11月9日(日)午後の部 大会50周年記念シンポ(担当 古田元夫)
アジア政経学会理事長経験者のかたなどに、これまでのアジア研究の回顧、アジア研究の現状、アジア研究の今後について、2名のかたに記念スピーチをお願いする。また、現在のアジア研究の現状と今後のアジア研究の課題について、3名による「パネルディスカッション」を企画する。(午後1時30分から午後4時)
*11月9日(日) 閉会の辞(新理事長挨拶)
☆ 優待会員制度について
2004年度より、優待会員制度を正式に設けます。その年度の4月1日時点で65歳以上であり、常勤の職をもっていない会員で、ご本人の申し出があった場合、会費を院生会員と同額の6000円といたします。お申し出は、総務担当事務局(連絡方法は奥付参照)へお願いいたします。
東日本大会開かる
☆石井米雄会員(神田外語大学長)委員長とする実行委員会(神田外語大、アジア経済研究所)の骨折りにより、今年も東日本大会が、5月24日神田外語大学にて開催されました。参加された会員による参加記を掲載します。
分科会1 「農村」 古田元夫(東京大学)
現在、アジア各地において農村は大きな社会変動の過程にある。この農村の社会変動に関しては、日本でも近年、フィールド・ワークをふまえた優れた研究成果が生まれている。今回の「農村」分科会は、ミャンマーとベトナムでのこうした研究成果の熱のこもった発表を受け、活発な質疑が展開された。
岡本郁子氏(アジア経済研究所)の「ミャンマーにおける流通自由化と農家経済−ヤンゴン近郊マメ産地の事例から−」は、ヤンゴン近郊で1980年代末の農産物の流通自由化以来、急速に栽培が拡大しているマメ(リョクトウ)作が農家経済に高収益をもたらしている実態を解明し、政府の規制が強い中でもマメは政府介入の対象にならなかったことがこうした発展をもたらしたとした。小川有子氏(東京大学大学院人文・社会系研究科博士課程)の「農民の選択:ベトナムにおける農村の労働力移動」は、ドイモイ下ベトナムにおける農村からの労働力移動を、ベトナム北部紅河デルタのナムディン省のコックタイン合作社で観察した報告で、ソムと呼ばれる集落レベルのネットワークが重要であること、行く先としてのハノイの比重は南部と比べて高くないこと、農閑期の季節労働者という型は必ずしも卓越していないこと、青年層の村外への移動には、家計への貢献よりも、将来を考えての農業から離脱、子供の自立という要素が強く作用していることを強調した。
分科会2 「労働」 丸山伸郎(拓殖大学)
「労働」分科会においては、次の2テーマが報告された。
(1) 東大大学院 山口真美氏「中国都市部インフォーマルセクターの生業構造と社会移動―北京市廃品回収業の事例研究を中心に」
(2) 防衛研究所 富川英生氏「マレーシアの日系組立てメーカーにおける人材育成―作業組織論アプローチによる国際技術移転研究」
(1)について、北京市朝陽区望京における廃品回収業の実態調査にもとづき、それが河南人による業種独占であることから、インフォーマルセクター内の労働市場の分断性を論じている。しかしこの分断は外部の者に対して排他的に機能するが、業種内の経済取引は依然として非常に競争的である、という特徴をもつという。特異な社会現象に注目した面白い研究であるが、山口報告に対し中国的社会的ネットワークの特殊性について、さらなる分析が必要との意見も出された。
(2)の報告は、マレーシアの日系組立てメーカー2社を対象として調査し、「作業組織論アプローチ」の方法論を使って作業組織や労務管理システムのあり方を分析、これを通して人材形成のあり方を研究したものである。これに対し「作業組織論アプローチ」にもとづく分析が有効か否かという意見が出された。「日本的経営・生産システム」が効率的で競争的であるかどうかが、報告者の問題関心であり、その点今後の研究展開が期待される。
分科会3 「政治外交」 望月 敏弘(東洋英和女学院大学)
本分科会では、国分良成会員を座長に、大澤武司・堀内賢志両会員による2件の報告が行なわれ、望月および浅沼かおり会員がコメントした後、全体討議へと進んだ。
大澤武司会員の報告「戦後日中関係における『民間外交』への一視角――在華邦人引揚
交渉における『三団体方式』を中心に」は、戦後初期の日中関係における民間交流を対象に、これまでの経済交流から引揚交渉という人道問題に光をあてようと意図した成果であった。望月からは、新しい外交記録を使用した点への評価と同時に、民間経済交流と引揚交渉を相互にどう位置づけるのか、また当時のアメリカの対応をめぐって、質問がだされた。
堀内賢志会員の報告「ソ連・ロシアと中国の改革における地方政府と中央・地方関係」は、中国とソ連・ロシアでそれぞれ70年代末と80年代半ばから始まった改革が、急速な経済発展と連邦の崩壊・経済停滞という対照的な結果をもたらした点を強調した。この相違の背景については、欧米の先行研究に依拠しながら、主として地方政府の役割に焦点をあてた説明がなされた。浅沼会員からは、地方経済のコーディネーターとしての地方政府が、中国の場合には県、ロシアの場合には連邦主体(中国では省に相当)で比較されている点、さらに中国の改革に対する評価や両国に共通する側面について、問題が提起された。
これら両報告とも、今後掘り下げられる必要のあるテーマに取り組むものであり、その進展が期待される。また今回、フロアーからの有益な指摘がとりわけ印象的であった。
分科会4 「国際関係」 平野健一郎(早稲田大学)
この分科会では、青木(岡部)まき会員(アジア経済研究所)による「ASEAN草創期における文化協力の政治的意味」と、阪田恭代会員(神田外語大学)による「米韓同盟の将来―冷戦後の再定義を踏まえて」という二つの報告が行われ、30名を越える出席者によって熱心な質疑が行われた。
青木会員の報告は、従来のASEAN形成研究が見逃してきた文化の面にはじめて着目し、ASEAN形成に果した文化協力の役割を重視しようとする野心的な試みであった。当時のデータに周到な分析を試みたのも、その試みに相応しいものであり、文化協力が域内信頼醸成の効果を持ったのではないかという仮説の証明にはほぼ成功していたといえよう。ただ、文化協力の実際の内容と効果には分析が及ばなかったために、当時のASEANの人々が自らの文化をどのように作り出そうとしたか、それが今日の地域統合にどのような効果を持ったかなどを、さらに解明してほしいという希望が多くの参加者から出された。
阪田会員の報告は、50周年の転換期を迎えると同時に、あらためて東アジア安全保障の焦点に位置することになった米韓同盟の変化を分析するものであった。これも周到なリサーチにもとづいて、綿密な議論を提示した報告であった。10年前からすでに始まっていた米韓同盟再定義のプロセスのなかで、韓国国防研究院(KIDA)と米国RANDコーポレーションの共同研究が重要な役割を果したという指摘は、特に注目された。ただ、このKIDA−RAND研究の意義についてはなお検討が必要なことが、討論者はじめ会場の専門研究者から指摘された。
報告者は、二人とも大会主催機関に所属する新世代のアジア研究者であった。新視点に立つ意欲的かつ着実な二つの研究報告に、中堅の専門研究者が助言と期待を寄せる構図が期せずして出現した。老年期の司会者(平野)は、アジア研究がさらに新しい段階に入るのを目の当たりにする思いであった。
共通論題1 「アジアはアメリカをどうみているか」 竹田いさみ(獨協大学)
磯崎典世会員は「『韓国』:民主化と反米運動――アメリカをめぐる国内対立」のテーマを設定し、1980年代から現在に至る韓国における民主化運動の軌跡を振り返りつつ反米感情の諸要因(「悪の枢軸」発言、女子中学生轢死事件、在韓米軍問題、対米不平等性、イラク派兵問題など)を指摘し、国内政治対立の構図を分析した。「9・11テロと対テロ戦争のマレーシア政治への影響」を報告したのが、中村正志会員であった。同会員は9・11テロ事件以前と以後の国内政治状況を鳥瞰し、テロ事件・イスラム過激派の活動・イラク戦争などイスラム世界をめぐる諸問題が、国内政治プロセスで与野党対立の構図(UMNO、PAS、DAPの諸政党)に対して、どのような政治的影響を与えたのかを論じた。伊豆山真理会員は、「アメリカの反テロ行動に対するインドの対応」を報告し、アメリカの軍事行動に対するインドの対応を、タリバン攻撃とイラク攻撃の事例を比較しながら分析したもので、インド外交政策の決定要因に注目したものである。これらの研究発表に対して、黒柳米司会員、首藤もと子会員、堀本武功会員から詳細なコメントが寄せられた。
真摯な報告と熱のこもった討論が終始展行われたが、報告者と討論者からプログラムの企画に対して共に要請があったことを記録しておきたい。いずれの報告者も、共通テーマの意図と議論の方向性を十分認識していなかったため、共通テーマを自由に受け止め、自由な発想で報告を行ったとの感想が寄せられた。この結果、9・11テロ事件との関連を意識するかしないかは報告者の裁量に属することになり、三本の報告は多様性に富み、討論も拡散傾向を示すことになった。司会はこれらの問題点を予想して準備しなければならず、反省する次第である。こうした課題を乗り越えるため、今後は企画者と司会の相互連携を重視し、さらに企画者がテーマ設定をした後に人選の段階で、司会候補と十分協議して報告者と討論者を決めることで、主要な問題を解消できるのではないだろうか。
共通論題2 「アジア企業のグローバル化への対応」 安倍 誠(アジア経済研究所)
本セッションでは,1990年代以降,急速に進行したグローバリゼーションのなかでアジア企業がどのような対応を迫られているのかについて検討をおこなった。第1報告者の川上桃子会員(アジア経済研究所)の「価値連鎖のなかの台湾企業−パソコン産業の事例」は,台湾のパソコン産業の発展過程を,同産業の国際的な価値連鎖の編成主体である米系企業によって割り当てられる台湾企業の役割の拡大,及びこれに呼応した台湾企業の対中投資を含む活発な投資活動,のふたつの側面から検討をおこなった。第2報告者の王曙光会員の「中国海爾(ハイアール)の国際化戦略」は,躍進する中国企業の象徴的存在として日本でも注目を集めている海爾集団の海外市場への進出過程を,生産量絶対主義とそのもとで過剰生産を消化させるための海外戦略がとられた第一段階(1991-97年),国内生産・国内販売,国内生産・海外販売,国外生産・国外販売を同規模にすることを目指す「三つの三分の一」戦略に代表されるように輸出・海外投資を積極化させた第二段階(1998-2000年),そしてWTO加盟後の環境変化に対応して高付加価値・独自機能製品の開発やそのための国内外有力企業との提携戦略を打ち出した第三段階(2001年以降)と区分して分析をおこなった。第3報告者のトラン・ヴァン・トゥ氏(早稲田大学)の「ベトナムの企業とアジア」は,ベトナム経済にとってのグローバリゼーションの問題について,政府の市場移行戦略(ドイモイ)は国営企業を温存させつつ非国営企業の発展を促す漸進的戦略をとった結果,経済安定と高成長を実現したものの,脆弱な企業体質や非効率な産業構造といった問題を残したこと,アセアン加盟や中国の台頭及びそれに伴う貿易関係の深化によってベトナムは企業の体質改善・産業競争力の強化などの必要性に迫られ,政府もドイモイ政策を修正して民間企業・外資の参入規制緩和政策などを進めたこと,その結果,株式会社の設立が急増するなどの成果をみせつつあること,などを指摘した。
以上の報告に対して討論者の洞口治夫氏(法政大学)は,主に川上報告について,企業の固有名をはずして産業全体として議論することの有効性,1990年代の新たな情報パラダイムの台頭など経営学が進展しているなかで80年代のポーターの著作から始まった価値連鎖の議論を援用する必然性,などについて疑問を呈した。続いて興梠一郎氏(神田外語大学)は王報告に対して,海爾集団には証券アナリストに対する訴訟事件や張瑞敏CEO個人のカリスマに頼る経営,不透明な財務管理などにより中国内では多くの批判にさらされている事実を指摘した。最後に清川雪彦会員(一橋大学)は,国際的な経営移転においても国民文化的特性,市場の性格を反映して生じる企業文化の差異,企業のグローバリゼーションによってもたらされる国内市場の再編成や分配問題の発生など,グローバリゼーションへの対応について討議すべきいくつかの論点を提起した。
その後,発表者から討論者への回答やフロアからの質問・意見を交えて活発な議論がおこなわれた。しかし,司会者である中兼和津次会員(青山学院大学)が最後に総括したように。各報告の議論の対象が産業・企業・国と異なっていたため,その後の議論も各個別報告の範囲にとどまってしまい,共通論題としての広がりを持つことができなかったのは残念である。
西日本大会開かる
☆今年度の西日本部会大会は、6月14日甲南大学で開催、実行委員会の骨折りで、無事終了しました。
分科会I(中国経済) 石原享一(神戸大学)
☆第1報告:「民営化後の中国郷鎮企業の雇用・労務管理戦略―上海及び江蘇南部地方を中心とする―」<白石麻保(日本学術振興会特別研究員)>:本報告は、地元政府やコミュニティと密接な関係を持ってきた郷鎮企業が民営化によって雇用・労務管理のあり方をどのように変えてきたか、という問題関心から出発している。主な論点は、1)従業員の出身地域による雇用等の面での異なる扱いが解消されているか、2)民営化後の労務管理とりわけ中核従業員の育成はどのようになされているか、の2点からなる。
上海と蘇南で行なった企業調査は、郷鎮、国有、集団所有制の企業から民営に転じた中小企業であり、かつオーナー経営者に権限が集中したものを対象としている。この調査の結果、次のような結論が得られた。第一に、出身地域による雇用面での扱いの差は解消している。第二に、長期雇用に基づく中核従業員の育成が図られている。第三に、従業員間に中核・非中核の階層分化の徴候が見られる。
以上の報告に対して、討論者の梶谷懐氏から1)民営化前の労務管理のあり方はどうだったか、2)外地にも近郊農村と外省との区別がある、3)取材対象が確定されていたか、4)一般従業員が臨時工の雇用形態に近付いたことによる二極分化ではないか、の4点からコメントが出された。会場からも、1)業種・所有制によって違った状況があるのではないか、2)地域によって違うのではないか、等の質問が寄せられた。
総じて、整理・淘汰の進む郷鎮企業において、雇用と労務管理のあり方がどのように変わったかを現地調査に基づいて明らかにしようとした興味深い研究であり、調査地域の拡張など今後の研究の深化が大いに期待される。
☆第2報告:「温州の経済発展と産業集積」<加藤健太郎(福井県立大学大学院)>:本報告は、温州の経済発展を産業集積という側面からとらえ、その特徴と産業集積のメカニズムを解明しようとするものである。主な論点は、1)温州の経済発展の初期条件と発展の要因、2)温州の産業集積の過程とネットワーク、3)温州における産業集積の特徴とその形成要因、の3点からなる。
産業集積を示す指標の1つとしての市場シェア率で見ると、温州にはライター、ボタン、眼鏡、皮革製品、徽章、電機部品など、多様な産業が専業市場と結びついて発展している。
温州における専業市場の形成に大きな役割を果たしたのは、中国各地で販売や買付をする113万人の温州人と世界に散らばる30万人の温州人の形成するネットワークである。
伊丹敬之氏の研究によれば、産業集積が継続・発展する要因には、「需要を搬入する企業の存在」と「集積地の柔軟性」の二つが必要である。前者については、温州人ネットワークがそれに該当し、後者については温州商会による調整や政府の融通性が挙げられる。
以上の報告に対して、討論者の金澤孝彰氏から、1)産業集積指標としての市場占有率の妥当性、2)業種と産業集積との関係、3)金温鉄道の敷設と長江デルタ市場の影響、4)「内発的発展モデル」の適用可能性、の4点からコメントが出された。会場からも、1)温州経済に関する先行研究との差別化、2)産業発展のタイプはローテク型か加工組立型か、3)華僑・華人資本の投資と温州の経済発展との関連、などの点について質問が出された。
総じて、個別地域としては先行研究の多い分野にあえて切り込んだ意欲的な研究であり、水平分業論なども含めて今後の研究の展開が大いに期待される。
分科会II(東アジア経済と生産性分析) 松木 隆 (大阪学院大学経済学部)
本分科会では、成長会計の立場から韓国と中国についてそれぞれ生産性の計測結果とその考察について報告がなされた。
第1報告「韓国製造業部門(1963〜83年)における労働生産性の成長」(ソウル大学大学院樋口倫生会員)では、1963〜73年、1973〜83年における28の製造業部門の労働生産性及び全要素生産性(Total
Factor Productivity、TFP)の計測がなされた。そして、TFP成長が効率性改善による実質費用削減(Real Cost
Reduction, RCR)と要素市場不均衡による再配分効果に分解されることを利用して、労働生産性成長に対するTFP成長の貢献について詳細な考察が行なわれた。また同時に、分析結果と韓国政府の産業政策との関連も論ぜられた。結果から、1963〜73年における化学製品、繊維部門などでの高いRCRと海外からの技術移転や資本財輸入との関係が示唆された。また1973〜83年における政府の市場介入については、重化学工業部門に対する選別的な産業政策を正当化するのは困難であるとの評価が下された。討論者(神戸大学陳光輝会員)からは、RCRを用いて考察を行う利点について、その説明が不十分であるとの指摘があった。
第2報告「中国の産業別生産性上昇と外国資本」(甲南大学藤川清史会員、愛知学院大学渡邉隆俊会員)では、産業連関表を利用し、1987〜92年、1992〜97年における中国の産業別TFPが計測された。結果より、全産業では前半期においてTFP成長はほとんどなく、ポール・クルーグマンの言う「幻のアジア経済」の主張はある程度妥当性を持つことが確認されたが、後半期においては幾分のTFPの上昇が確認されクルーグマンの主張は当てはまらないことが示された。また、TFP成長率と三資企業(外資系企業)のシェアとの関係についても考察がなされ、電気機械、繊維製品などのTFP成長率の高い産業では外資系企業のシェアも高いという結果が提示された。討論者(大阪学院大学松木隆)からは、生産性の計測に用いられた資本ストックの代理変数について、その妥当性の問題が指摘された。
上記の2報告は確固たる理論的根拠に基づき議論の展開がなされているが、新古典派の仮定の妥当性について若干の説明を行うことにより、分析の信頼性がより高まるものと思われた。
分科会III(韓国・インド経済) 宇山博(大阪国際大学)
第3分科会は、統一テーマがなく、韓国、インドの各国経済であった。
韓国経済では、余り研究されていない公正取引法と財閥の関係を取り上げていたことが目新しかった。公正取引法の進展過程を時代区分し、出資規制制度と相互債務保証制限制度を重点に取り扱ったことは、財閥問題の中心課題であり大変有益であった。なかでも出資規制制度は変更もあり、IMF通貨危機以降、その実体は問題があるとの指摘はきわめて重要である。希望としては、公正取引法が生まれた理由の説明と、各大統領の取り組み方の比較がもう少しあれば大変興味深いものになったのではないか。参考資料はすこぶる丁寧であり、当該研究者にはありがたい資料となっている。
インドのIT産業は、インフラ未整備、輸入代替政策などによって大変不利な環境に置かれていたにもかかわらず、非常に短期間に成長してきたことを、実証的に実態、要因、支援策、課題についてコンパクトにうまくまとめていた。インド経済のリーディング産業であるIT産業を、政府も積極的に支援する様子がよく理解できた。ラオ政権の「新経済政策」に沿った各種のIT関連政策を詳細に説明し、IT産業に優位性を高く見通していたことは肯ける。輸出先の偏重などの課題については、具体的な解決策を提示してほしかった。また、ソフト産業のマンパワー(人材教育制度等)についてあまり言及されていなかったことは少し物足らない感じがした。
共通論題T:グローバル化とアジア経済 辻美代(流通科学大学)
共通論題Tグローバル化とアジア経済では、経済のフローバル化がアジア諸国経済にもたらす影響に焦点が当てられた。本多健吉座長(福井県立大学)のもと、東南アジアと中国の立場から、それぞれ末廣昭会員(東京大学)と佐々木信彰会員(大阪市立大学)が報告を行い、コメンテーターおよびフロアーからの活発な質疑応答が行われた。
第一報告者の末廣氏から、1997年アジア通貨危機以降、アジア各国の地場企業はメガ化した多国籍企業との厳しい競争に苦戦を強いられていること、また、デルのダイレクト・モデルを例に、現在、国や産業を超えた「ビジネス・モデル」に競争優位があり、アジア各国はメガ企業の戦略に組み込まれていることなどが報告された。末廣氏の報告は、従来の「一国・主要産業」に主眼を置いた地域研究の在り方に対し、「国(・産業)を超えたビジネス・モデル」研究を提示した刺激的なものであった。末廣氏の報告に対し、コメンテーターの平川均会員(名古屋大学)からは、メガ企業の世界戦略への対応策として、地域主義と市民運動の高まりが指摘され、また、ローカルな視点を持った地域研究の重要性が述べられた。
第二報告の佐々木氏からは、中国の「全球化(グローバル化)」の現状が紹介された。中国はグローバリズムを主体的に選択し、外資に大きく依存した形で経済発展を遂げてきたこと、そして、その影響として、今回のSARS発生は、従来の中国経済の発展メカニズム(国内労働力と外国の資本・技術の結合、メイド・イン・チャイナの実態)に多大な影響をおよぼし、今後、中国政府には情報公開が求められていることなどが報告された。佐々木報告に対し、コメンテーターの上原一慶会員(京都大学)からは、新技術革命、経済のグローバル化、世界的な市場化をキーワードに、中国のグローバリゼージョンへの対応にスポットを当てた樊鋼(中国経済改革研究基金会国民経済研究所所長)の議論が紹介された。
以上のような両報告およびコメントに対し、フロアーから多様な質問が出された。末廣報告に対しては、政府の役割、中小企業の位置付け等が質問され、また、佐々木会員に対しても、中国がグローバリズムに与える影響、WTO加盟の金融業に与える影響等々について質問が出された。
私は大学院時代の恩師オンパレードに、まるで学生に戻ったような緊張感で共通論題Tに参加(拝聴)した。参加記の最後は、出来の悪い学生の感想(妄想)で締めくくりたい。グローバル化は、途上国にとって諸刃の剣であり、経済発展に資する一方で、多国籍企業の戦略下に敷かれる。中国は経済発展を望み、グローバル化を「主体的」に選択したものの、多国籍企業の戦略下に置かれることを「主体的」には望まないだろう。現在、メイド・イン・チャイナは主として海外市場に向けられているが、早晩、国内市場に向い、市場を席捲する日が来るだろう。そうはさせじとする中国のグローバル化戦略とは、また、そうなった時の中国のグローバル化とは、「有中国特色的『全球化』」なのだろうか?
共通論題II:韓国・北朝鮮経済と「改革」 朴 一(大阪市立大学)
午後のセッションの共通論題II(韓国・北朝鮮経済と「改革」)では、小川雄平会員が座長を務め、近年の朝鮮半島における経済改革に関する報告が行われた。
まず第1報告として、私(朴一)が、韓国で高まる反米ナショナリズムという切り口から、金大中政権の構造改革が生み出した問題点について考察した。金大中大統領は、97年危機に陥った要因を韓国固有の構造的問題と認識し、企業・金融部門などの経済改革に着手した。その結果、韓国のマクロ経済指標は「V字型回復」を成し遂げたが、企業倒産の増加や拡大する貧富の格差など、「改革」が生み出した問題も少なくない。そうした副作用のなかでも特に注目したのは、韓国経済における外国資本のプレゼンスの上昇である。独立後の韓国は自立した国民経済形成を指向してきた。韓国の資本主義発展は、1970年代に活発に行われた社会構成体論争が問い掛けるように、対外依存の深化と密接に関わっている。韓国において反米感情が高揚しているは、韓国経済が外資に飲み込まれることが危惧されていることも影響しているのではないか。金大中政権の構造改革の残された課題として、韓国は対米依存からの脱却を模索する必要があると結論付けた。
コメンテーターの服部民夫会員は、韓国が経済回復を成し得た要因にはウォン安の影響を無視できないと指摘したうえで、構造改革後も企業の所有構造に大きな変化は見られないことを事例に出して、韓国経済に対して次のような仮説を提示した。失業率の低下には、韓国社会特有の人間関係ネットワークが作用し、縁故採用によって労働力が吸収されたことが大きな役割を果たした。したがって、通貨危機の原因とされ、批判される要素であった「クローニー資本主義」がむしろ経済を回復させたという事実は、韓国経済の柔軟性を示すものであるという。さらに服部氏は、盧武鉉大統領の誕生は韓国社会の成熟を表すものであるとして、過去には戻れない韓国経済の発展性についても言及した。
続く第2報告は、小牧輝夫会員による「北朝鮮経済と『経済改善』政策」である。小牧氏は、90年代から鍋底型の低迷状況が続く北朝鮮経済の現状を概観した後で、2002年7月以降に実施された「経済改革措置」(改革的・開放的措置)について報告した。小牧氏によれば、その経済改革措置は、あくまでも北朝鮮式社会主義経済体制の建て直しが目的であり、直接的に中国の「改革・開放」モデルにつながるものではないという。しかし、国家がすべてを統制する従来型の経済への復帰は北朝鮮の財政状況を見ても困難であるために、長期的に言えば、北朝鮮は体制維持のためには結局、市場経済導入に踏み切らざるを得なくなる。今回の一連の改革措置は、北朝鮮が従来の「恩恵」国家から普通の国家に転化するために、将来的に重要な政治的な意味があるというのが、小牧氏の主張である。
コメンテーター坂田幹男会員は、小牧報告のスタンスが朝鮮半島の平和的解決を期待したものであると支持し、その主旨を全面的に受け入れながらも、今年(2003年)3月の最高人民会議で今年度の予算が報告されなかったことに触れ、北朝鮮は市場経済導入に早く踏み切るのではないかと質問した。これに対して小牧氏は、物価を大幅に切り下げたために予算を評価できなかったのではないかと返答し、北朝鮮の当面の懸案事項には中国の動向が重要であると付け加えた。
以上の報告に対して、フロアからも多くの意見や質問が出され、議論は大いに盛り上がった。紙幅の関係でその内容を紹介することはできないが、朝鮮半島情勢に対する関心の高さを窺い知ることができた。
<新入会員自己紹介(順不動)>
ご挨拶 辰己佳寿子(広島大学大学院国際協力研究科博士課程後期)
私は広島大学大学院国際協力研究科・教育文化専攻文化動態講座・博士課程後期の辰己佳寿子と申します。以前は、西中国山地の地域活性化に関わっておりましたが、日本の中山間地域の経験が低開発国の農村開発に生かされないだろうかという問題意識から、バングラデシュのグラミンバンクの研究調査をきっかけに、南アジアへの農村問題へ傾斜しました。現在は、ネパールの山岳地域を研究対象地とし、観光で生きようとする農村と昔ながらの純農村における生活戦略及び農村開発の比較を通して、地域住民による地域資源管理(保存・利用・改良)を通じた独自の地域づくりの方策を探求しております。ネパール山岳地域の世界の現象を通してアジアという視野で普遍化できるものを発見できないかと思い、このたびアジア政経学会に入会いたしました。どうぞよろしくお願い申し上げます。
ご挨拶 小野理恵(広島大学大学院国際協力研究科博士課程後期)
学部時代からバングラデシュの農村問題、貧困問題に関心を持ち、現地調査を継続的に行い、実証研究を行ってきました。博士課程前期では、同国で農村開発の主手法となっている小規模金融の活動に注目し、グラミンバンクを取り上げ、貸付が借り手世帯と農村社会に与える社会経済的な影響とその問題点について考察を行いました。博士課程後期からは、非制度金融を含めた農村金融全体の暮らしの安定化のための機能と役割を分析しようと試みております。特に、バングラデシュ農村部における金貸しや商人による貸付や女性によるインフォーマルな貸し借りや村民による自発的な貯蓄・貸付グループに注目し、文化的な背景も考慮に入れて研究を進めております。さらに、近年、女性の食糧確保のための諸活動(貸し借り、貯蓄、生産活動、消費)に関する研究にも取り組んでいます。
資格制度の普及と新たな労働市場 嶋亜弥子(大東文化大学大学院)
大東文化大学大学院アジア地域研究科D1に籍を置く嶋亜弥子と申します。私の関心は中国の労働市場分析です。労働市場には都市・農村の2重構造のみならず、都市内部の行政区域間の流動障壁、旧中国の地縁関係による障壁など、労働移動に対して各種の障壁があります。そうした労働市場が教育の普及や資格制度導入によってどう変化していくか、また労働市場での新しい階層の発生と各層労働市場間の流動性が固定化していくのか否かについて関心があります。現在は特に職業教育、職業訓練や資格制度に焦点を当て、論文作成のほか、労働関係50年史年表を作成中です。今夏には現地調査も予定しております。
貴学会の学会報告を拝聴し、大きな刺激を受けました。現地調査等を取りまとめ、学会活動に参加できるよう努力していきたいと思っています。まだまだ若輩者ですが、どうか宜しくご指導いただけますようお願い申し上げます。
ご挨拶 大岩 寿美子
シンガポール研究の大先輩、田中恭子先生のご紹介で、この会に入会できましたこと、大変嬉しく、深く感謝しています。シンガポールの政治を、指導者の唱える「アジア的価値観」の意味と、その価値観が女性に課す役割についての考察を通して、研究してきました。
シンガポール国家の本質的な性格として、岩崎育夫先生が「政治的秘境」と言及れたのが印象に残っていますが、この言葉は、最近訪れる機会のあったラオスにもよく当てはまるのを痛感しました。長年親しんできた都市国家から少し視界を広くして、インドシナの「秘境」ぶりを、アセアン諸国との関係という文脈の中で、考察していきたいと考えています。会員の皆様の質の高い研究に接し、明日への良きはずみにしたいと思いますので、よろしくお願いします。
ご挨拶 大西裕(大阪市立大学)
大阪市立大学の大西裕です。韓国の政治行政について研究しています。現在特に関心を持っているのは執政(大統領、首相)と議会、行政の関係が政策アウトカムに与える影響です。よろしくお願いいたします。
ご挨拶 椛島洋美(横浜国立大学)
このたび入会いたしました椛島洋美です。専門は政治学で、アジア太平洋という枠組みでのガヴァナンスに関心を持ち、APECを中心に研究を進めています。APECと言えば、集団行為としての結果がなかなか見えず、毎年首脳らがお揃いの衣装を着て記念写真を撮るのが最も大きなイベントという具合にしばしば酷評されます。ある意味、これはAPECが単なる会同のためのアリーナであると位置づけられてきていることの表れでもあるのでしょう。まず問い直さなければならないのはAPECがアリーナであるかどうかですが、たとえAPECがアリーナにすぎないとしても、疑問は山積しています。APECはなぜアリーナでありつづけるのか。アリーナとしての意味は何か。APECはアリーナとしてどのような影響をアジア太平洋という枠組みに与えたのか。近年、テロ問題やSARS問題など、緊急かつ安全に関わる論点がAPECでも提出されつつある中、アリーナとしてこれらの課題に取り組む意味は何かなど…。よろしくご指導ご鞭撻のほどお願いいたします。
ご挨拶 中原裕美子(九州大学大学院経済学府博士後期課程)
九州大学大学院経済学府博士後期課程の、中原裕美子と申します。日本のアジア研究をリードされる先生方の学会に仲間入りさせていただき大変嬉しく思うと同時に、改めて身の引き締まる思いがしております。
私は、学部卒業後就職した企業で、台湾の情報機器各社との取引に従事しておりました。その中で、先進国多国籍企業の黒子に徹しながらも世界市場を事実上席巻する台湾の中小企業のパワー・荒削りながらも矢継ぎ早に新技術を取り入れる技術者達の「攻めの姿勢」に圧倒され続け、また、柔軟な労働市場・女性の労働参与率の高さ・不熟練外国人労働者への依存度の高さといった、労働をめぐる様々な事象について考えさせられ続けました。これらを解明したいと、辞職後、台湾経済の研究者の道を志した次第です。今後は当学会の諸活動に積極的に参加し、一層の研鑽を積みたいと思っております。ご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
ご挨拶 美甘信吾 (ロンドン大学(SOAS)政治学部 博士課程)
私は、本学会に入会しました美甘(みかも)と申します。民間企業に勤めた後、ロンドン大学の修士・博士課程で、開発問題、東南アジア政治経済を中心に研究を続けてきました。先頃提出した博士論文では、フィリピンの銀行業を中心とする金融改革の政治過程の分析を行いました。当面は、経済改革の政治過程の研究を中心に、一国の実証研究、比較研究を少しずつ深めていきたいと考えております。本学会を通じて、皆様から学ぶ機会も多いことと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
ご挨拶 山本忠士(亜細亜大学アジア夢カレッジ推進室参与)
この度、新会員に加えていただき、大変光栄に存じております。私は、今年62歳。新入会員といえば、多分、お若い方々中心でしょうから、やや気恥ずかしい思いがいたします。
大学に勤めて今年で36年になります。この間、留学生関係を中心とした国際交流関係業務を前後10数年担当したことがあります。動きの速い時代ですから、ささやかな経験もすぐに陳腐化してしまいます。
現在は、来年度から開講する「キャリア開発中国プログラム」の準備業務にかかわっております。本学会へは、アジア研究、特に中国関係の最新の研究成果を吸収したいという願いをもって希望いたしました。個人的には、大正期における「日中間のコミュニケーション・ギャップ」に関心をもっております。
晩学非才ですが、宜しくお願いたします。
「自力更生と北朝鮮の体制移行」 鄭光敏(名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程)
私の研究の関心分野は北朝鮮経済研究であります。その中でも1990年代以降北朝鮮の経済危機の解明(危機論)と,体制移行のプロセスに特に興味をもっております。私は北朝鮮経済研究のキーワードは「自力更生」にあるのではないか,というふうに思っております。といいますのも,北朝鮮は世界に例のないほど長期にわたって徹底的に自力更生型開発に固執してきたからであります。さらにいいますと,北朝鮮における自力更生は,反世界経済.システム的な自力更生型開発のみならず,戦時動員経済および首領唯一支配の政治の再生産においても補完性をもつ調整様式でありました。したがって,北朝鮮経済危機の解明や体制移行を展望するに当って,北朝鮮の「自力更生型開発体制」の歴史的制度的諸要因の分析は欠かせない課題ではないか,というふうに思っております。これからアジア政経学会の皆様のご指導をお願い申し上げます。
ご挨拶 太田仁志(早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程)
早稲田大学大学院商学研究科の博士後期課程に在籍しております太田仁志と申します。私の専攻は労働経済・労使関係・人的資源管理で、これまで特にインドにおける動向を中心に勉強して参りました。今後はインドだけでなく、スリランカやパキスタン、バングラデシュなど南アジア地域に研究対象を広げていこうと考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
自己紹介 舛山誠一(野村総合研究所)
私は1969年に野村総合研究所に入社し、主に海外株式市場調査に従事してきましたが、1994年以降はアジア研究に関わって来ました。現在、当社と先進5カ国の研究機関(T5)とアジア10研究機関(AT10)との共同研究の企画調整を担当しながら、AT10との共同研究の成果を活用する形でアジアの産業発展に関する調査研究を行っています。この関連で当社によるインドネシア工業省への産業政策提言、JICAのベトナム、ミャンマーへの構造調整支援プロジェクトにおける産業政策に関する調査に関わる機会を得ました。
関心領域は、共同研究企画調整業務との関係で多岐にわたりますが、自らのアナリストとしての経験を生かして、多国籍企業活動および資本市場とアジアの産業発展との関係を調査研究して行きたいと思っています。当学会の活動を通じて、アジア研究の成果を吸収するとともに、このような分野における意見交換の場を持てればと期待しております。よろしくお願いします。
ご挨拶 松村史紀(早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程)
早稲田大学大学院政治学研究科博士後期課程に在籍中(国際政治学専修)の松村史紀と申します。現在の大きな関心は、戦後アジアにおいて冷戦が始まるプロセスと米中関係の展開をどのように関連させて捉えるべきかという問題です。特に冷戦の焦点となる地域、イシューだけを追うだけの冷戦史ではない歴史像がいかに可能なのかに関心があります。具体的には米国の戦後アジア地域秩序構想のなかで中国がどのように位置づけられ、米中関係がそのなかでどのように展開してきたのかを体系的にまとめたいと思っています。こうした関心、アプローチから、現在は米国の対中国政策の大きな転換点となったマーシャル・ミッション(1945年12月~1947年1月)に焦点を当て、外交史料(米中ソ)を豊富に使った詳細な歴史研究に取り組んでいます。
ご挨拶 樋渡雅人(東京大学大学院総合文化研究科博士課程)
私は、旧ソ連中央アジアのウズベキスタンを対象にし、同国の経済開発、貧困問題を伝統や慣行等のルールの影響を強く受けた慣習経済に注目することによって検討したいと考えています。ウズベキスタンは、計画経済から市場経済への移行を進める典型的な市場移行国ですが、住民の日々の生活に目を向けると、強い血縁関係やイスラーム的な地縁関係に由来する伝統的な人的紐帯を用いた経済活動が広範に見られる地域でもあると考えられます。具体的には、ウズベキスタンの伝統的な共同体であるマハッラ(makhallas)の研究、家計収支調査の横断面データを用いた家計間の現金、財貨、サービス等の移転授受の機能分析、ウズベキスタンに固有の慣習であるギャップ(Gap)の回転型貯蓄信用講(Rotating
Savings and Credit Associations)としての役割の検討等を研究テーマとしています。どうぞよろしくお願い致します。
中国村落社会の人類学的研究 川口幸大(東北大学大学院文学研究科)
東北大学文学研究科の文化人類学研究室に所属しております川口幸大と申します。2000年から約2年間、広州中山大学に留学しながら、同市番禺区の村落に住み込んでフィールドワークを行いました。現在、博士論文を執筆中で、そのテーマは「中国村落社会における伝統文化と権力の動態に関する研究−宗族活動・葬送儀礼・年中行事を題材として−」ということになっています。具体的には、中国村落社会において、政府の政策と人々の実践がどのように影響しあいながら、これら伝統文化が変容・持続してきたのかを考察していこうというものです。目下、村落の人々の語りや、族譜・地方誌といったフィールドで集めたデータを、民国期から現在までの中国史の流れと、政治・権力論の中に位置づける作業を行っています。アジア政経学会では、近現代中国における政治・経済について、多様な学問的背景をもたれる会員の方々から学ばせていただきたいと考えております。
日中経済統合とAFTAの枠組み Zang Shijun
Zang Shijunです。よろしくお願いします私は日中関係を研究しています。今の研究テーマは「東アジアの貿易自由化の構想と日中両国の対応」です。貿易自由化/投資自由化に伴い、経済統合の趨勢が鮮明である。21世紀は世界の統合の世紀だと言えます。特に、経済の統合がはやく進めています。日中経済の相互依存関係が一段と強化していくと考えられます。私は日中経済構造、貿易構造、生産要素の補完関係及び政治決断などの視点から研究するつもりです。みなさんのご教示ご協力をお願いします。
私は学会の研究刊物の忠実な読者であり、学会の活動もできるだけ参加します。学会から斬新な研究論文を読めさせてありがたいと思います。
現代中国農村社会史研究 横山政子(大阪大学大学院)
中国農村社会史研究として、大躍進期の統制のシンボルである「公共食堂」の運営のあり方と農民家族との実態的解明に取り組んでいます。
現代中国における政治動向が伝統的家族制度に与えた影響、および逆に家族制度が政策をいかに規定したのかを考察して、中国の家族の特質を理解することが研究目的です。
大躍進期農村社会の解明の一環であり、また中国史の中で議論されてきた国家と家族との相互関係に注目する研究の一端でもありたいと考えています。そのなかで農業集団化時期に与えられた課題は、長い歴史の中で一旦土地と農産物を手中に収めた農民家族が、基層社会への強い統制下にあって、どの様に統制され、どの様に統制されなかったのかを分析することであると認識しています。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
ご挨拶 松村史穂(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)
昨年提出した修士論文では、中華人民共和国において1980年代まで採用されていた、糧食の統一購入・統一販売政策を取り上げた。なかでも、この政策が1953年に導入されて以降の5年
間に焦点を当て、この政策の初期状況を考察した。政策の導入当初、政府の政策意図は必ずしも社会に浸透せず、農民は都市に流出することによって政策への抵抗を試みた。しかし、政府
は戸籍管理の強化によって農民が都市に流出することを阻止しようとし、その結果として、都市と農村とを厳格に区別する戸籍制度が確立された。従って、厳格な戸籍管理制度は、統一購
入・統一販売政策の履行を貫徹させようという意図の中から派生したのであり、政府が試行錯誤を重ねながらも、統制の力を重層化させていく過程を看取することが出来る。
学会報告等を積極的に行なっていきたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します。 |