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新執行部決まる ☆
アジア政経学会では、昨年秋に評議員の投票により、44名の新理事(2002―2004年度)が選出されています。新理事会は、2001年12月8日万国津梁館で開かれ、24名の常務理事を選出、同日続いて開かれた常務理事会にて、石井明常務理事(東京大学)が理事長に選出されました。さらに、石井理事長の下で2002年1月26日に開かれた常務理事会で、新しい業務担当の体制が次のように決まりました。学会事務局は、総務担当の高原理事のところに置かれます(住所等は奥付をご覧下さい)。
総務=高原明生(立教大学);研究=末廣昭【東日本担当】(東京大学)、佐々木信彰(大阪市立大学)【西日本担当】;編集=加藤弘之(神戸大学);広報=若林正丈(東京大学);国際交流=国分良成(慶応大学);財務=加納啓良(東京大学);50周年記念事業=古田元夫
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今年度西日本大会 ☆
今年度の西日本大会は、6月29日(土)から30日にかけて福井県立大学(福井県吉田郡松岡町)にて開催することになりました。交通の便を考慮して、第一日目は午後13:30より開始、第二日目は12:30に終了する日程となりました。案内はすでにホームページに掲載しています。事務局責任者は、坂田幹男会員です〔Tel:0776-61-6000(内線2806)、Fax:0776-61-6014(坂田宛)
E-mail:sakata@fpu.ac.jp 住所:〒910-1195 福井県吉田郡松岡町兼定島4-1-1 福井県立大学経済学部内〕。
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今年度東日本大会 ☆ 今年度の東日本本大会は、6月8日(土)に文部省総合センター(東京神田一ツ橋)で開催することになりました。事務局責任者は、東京外国語大学アジア・アフリカ研究所の中見立夫会員です。
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今年度全国大会 ☆ 今年度の全国大会は、10月26日と27日の両日、神戸大学で開催されることが内定いたしました。事務局責任者は、加藤弘之会員です。
☆ お願い ☆
2月中に事務局より「会員名簿作成データ」のお願いの葉書が届いていると存じますが、回収率が悪いと会務に多大の影響がでます。必ずご返送いただきますようお願いします。
☆2001年度全国大会開かれる☆
*2001年度の全国大会は、去る2001年12月8日と9日の両日に渡り、沖縄県名護市の万国津梁館にて開催され、盛会のうちに幕を閉じました。例によって、参加した会員より参加記をいただきましので、掲載します。(広報担当 若林)
<12月8日>
自由論題 I 中国経済 高屋 和子(大阪市立大学大学院後期博士課程)
自由論題 Iでは、中国経済について、第一報告で唐成会員から「中国の家計貯蓄−部門別貯蓄率の変動要因」をテーマに、次いで第二報告で、堀口正会員から「中国・郷鎮企業の所有制改革とその効果−上海郊外農村での事例より」と題しそれぞれ報告が行われた。
唐成会員は、高い家計貯蓄率が中国の経済成長のパフォーマンスを特徴付けているととらえ、中国の高い家計貯蓄率の要因を分析した。計画経済期中国の国民貯蓄の高水準は政府貯蓄に支えられていたが、移行経済期に入ってからは家計貯蓄率が高い伸び率を見せ、貯蓄主体が政府部門から家計部門に移行していることが明らかにされた。貯蓄率の部門間の相関関係と変動係数を実証的に分析し、その結果このような部門別貯蓄率の変動が生じた原因を財政政策の変化に求めている。経済体制改革、財政制度を通じて中国は「小さな政府」へと転換したため、政府部門に代わって家計部門に大幅な貯蓄増加が発生し、その貯蓄増加は企業部門の自主投資需要拡大に利用され経済成長を加速させたとしている。従来の分析とは異なり、政府貯蓄など他部門の貯蓄との関連性に注目し、中国の高い家計貯蓄率の要因分析がなされた大変興味深かった。
続いて堀口会員が、中国の郷鎮企業所有権改革の効果について報告を行った。上海郊外農村の企業データと現地でのインタビュー結果を用いて実証的分析が試みられ、その結果所有権改革は90年代以降低下傾向にあると言われる郷鎮企業の利潤率改善に強い効果をもたないことが明らかにされた。その原因は技術面や経営面での改善がそれほど進んでいないためであるとし、企業格付け制度の実施により優良企業が十分に融資を受けられる制度を確立すること、製品が市場に出回る環境を整備するために流通システムの整備が必要であること等、所有権改革以外にも条件整備が必要であることを主張して報告は締め括られた。データ入手が困難なため実際の郷鎮企業所有権改革についての効果が明らかにされていない中、具体的なデータと現地での詳細なインタビュー結果をもとに分析がなされていた。会場からも多くの質問や発言があり、本報告が興味深い論点を提供したことが窺えた。
自由論題 II(中国社会・歴史) 川井伸一(愛知大学)
出羽孝行会員の報告「朝鮮族の教育問題」は,吉林省延辺朝鮮族自治州をケースに中国朝鮮族を取り巻く社会変動(朝鮮族人口の減少,農村から都市への人口移動,韓国への出稼ぎ増大など)と,そのなかで朝鮮族学校教育の「危機」が生じていることを指摘する。報告者は自ら実施した現地の朝鮮族学校の教員に対するアンケート調査を通して,その「危機」の内実について分析を加える。調査で明らかになった点として,第一に生徒の民族性維持の現状について,朝鮮語は比較的維持されているが,朝鮮族社会における朝鮮族の特性は弱化していると考えている教員が多いこと。第二に朝鮮族学校教育の「危機」について,ほとんどの教員が身近な問題として自覚しており(例えば,学校の財源不足,漢族学校への生徒の流出など),都市部よりも地方の教員のほうが問題を深刻に認識していること,第三に民族教育実践の「困難度」については,教える内容が多すぎ,普段の指導は上級学校進学に大きく左右されていると考える教員が多数を占めていること,などである。
以上の報告に対して,コメンテーターおよびフロアーから,1)中国のWTO加盟などの経済グローバル化が民族教育にどのような影響を及ぼすのか,2)北東アジア経済の将来動向との関連でコリアン・ネットワークをどのように位置づけるのか,3)民族教育の「危機」を朝鮮族がどのように克服しようとしているのか,4)中国国民意識とは中華民族としての意識なのか,5)朝鮮族の韓国との接触の増大が朝鮮族の民族教育にどのような影響をあたえるのか,などの質問が提起され,報告者からそれぞれ回答がなされた。
次に金丸裕一会員の報告「蘇州電廠設立の政治経済史」は,蘇州電廠の成立が日本資本の進出に対抗する中国民族資本の闘争の成果であり,五四運動時期の経済ナショナリズムの表れであるとする従来の中国側の通説に対する批判的検討を試みたものである。報告は史料の実証的検討を通して,中国の振興電灯と日本の東亜興業との資本提携は極めて複雑巧妙な契約を通して日本資本の参入の実態を隠そうとしたこと,しかし,しかしその機密は漏洩され,蘇州社会に日本資本の参入に対する反対の機運が興ること,反対運動は中国の蘇州地区のさまざまな団体組織(総商会,協商会,市民協会など)が担っていくが,北京政府,省・県レベルで対応に差異がみられたこと,設立された蘇州電廠の董事と監査人のほとんどは蘇州人であったことなどを明らかにする。こうした事実の発掘を踏まえて,報告者は,蘇州電廠の成立にいたる紛争の性格づけとして単なる日本資本に対する愛国主義運動だけではなく,蘇州地元資本と外地資本との抗争,そして振興電灯の出資者・経営者であった祝蘭舫の「投機家」としての性格に注目すべきことを主張する。
報告に対してコメンテーター(川井)およびフロアーからは,1)この紛争の性格づけについて,提示された史料から判断するかぎり外国資本に対する反対としての性格が依然として強いのではないか,2)この事件は当時の日本企業の対中直接投資からみて特殊なケースなのかどうか,3)蘇州地区におけるナショナリズムや地域主義がどの程度あったのかどうか,4)蘇州における総商会などの諸団体がどのような性格の組織なのか,ブルジョア的な発展を志向した組織なのかどうか,などの質問が提起された。これに対して報告者は,例えば1)について通説の五四時期のナショナリズムだけでは説明できないこと,地域的,個人レベルの要素も重要であることを言いたかった。2)について在華紡などの大規模資本がその所有を明らかにして進出したことを別にして,多くの中小企業は出資の正体を隠して進出しており,結局事業に失敗している。本件はそうしたかなり標準的なパターンの一例であると説明した。本報告は歴史的事件の検証ではあるが,現代における日本企業の対中直接投資の問題点との比較から興味深く,事件のもつ時代性と普遍性を考えさせられた。
自由論題 III 東南アジア 佐藤考一(桜美林大学)
五十嵐誠一会員の報告「フィリピンとビルマの民主化比較考察―統合的アプローチを手がかりとして―」は、共に経済・政治危機を背景として高まった86年のフィリピンと88年のビルマの民主化の機運が、前者は成功へ、後者は失敗へ、帰結したのは何故なのかを、最近の比較政治学のアプローチを用いて分析しようとしたものであった。ハンチントンやリンス等のモデルを適用しても十分な説明が出来ず、軍部の分裂の有無と米国の圧力の有無が民主化の成否に決定的だったとの結論に、コメンテーターの玉田芳史会員は、モデルの適用の有効性の問題を指摘し、さらに民主化への移行は、台湾のように大衆の動員がなくとも起こるケースもあることを示した。また、司会の山影進会員は、86年と88年のワンショットだけの比較でよいのか、と分析に時間的幅を持たせる必要性を喚起した。
本名純氏(立命館大学)の報告「インドネシアの民主化移行―国軍のシビリアン・コントロールを巡る諸問題―」は、インドネシアの民主化移行が進まないのは、文民政治家が、社会不安や、国軍の政治利用の思惑等から、政治の脱国軍化を進められず、国軍も、給与が不十分でビジネスから足を洗えず、国内安全保障への文民政治家の介入も拒否している等、脱政治化出来ないためだ、との趣旨であった。コメンテーターの加納啓良会員は、インドネシアでは現在、民主化(demokratisasi)ではなく改革(reformasi)が使われているが、これは民主化の意味を含むのか、また国防治安相はワヒド政権以降文民になったが、国軍の脱政治化と評価出来るかとの疑問を提起し、本名氏はいずれも否定した。他に、永井史男会員から地方レベルでの兵士のリクルート方法についての質疑があったが、これは研究課題として残された。
筆者の印象では、二つの報告はいずれも意欲的な内容で好感が持てたし、討論も充実していた。だが、報告者は二人ともタイトルに民主化という言葉を用いたのであるから、甲斐信好会員が指摘したように、何を以て民主化の成功と考えるのかについては、もっと議論してもよかった。また、民主化を選挙制度や法の定着との関連から見るなら、植民地宗主国が残した制度枠組についても検討する必要がある。今後の研究の発展に、期待したい。
分科会 I 朝鮮半島
分科会 Iでは、服部民夫座長のもと韓国の経済問題、北朝鮮をめぐる外交問題の報告など、朝鮮半島情勢に関する報告が行なわれた。
安倍報告では、アジア経済危機以降の韓国の財閥のうち、いわば「勝ち組み」の三大グループに関して、財務構造やグループ内所有構造、創業者一族経営関与の変化などから、現状の分析が紹介された。詳細なデータに基づいた興味深い報告であったが、座長からも指摘があった通り、「負け組み」との比較考察があれば、より鮮明に「勝ち」残れた要因が理解されやすかったと思われる。
張済国報告では、クリントン政権とブッシュ政権との政権成立後6ヶ月間の対朝政策に関して、外交政策全般、官僚機構、対朝イメージなどの面での比較考察がなされた。これに対しコメンテーターの伊豆見会員からは、クリントン政権の発足6ヵ月との比較よりも政権全体との比較が重要でなかったかとの指摘があったと同時に、ブッシュ政権の発足当初対朝政策が進まなかったのは、「もしも対朝政策が進展してもその成功はクリントン政権に帰すことになるからである」という指摘がなされた。丹念な考察ではあったが、ブッシュ政権の今後半年ないし一年の対朝政策が明るくないという次の段階、北朝鮮が「瀬戸際政策」をとりにくくなっている状況のもと、アフガン問題の後に、米国が北朝鮮に執る政策が改善されるのか、一層厳しくなるのかの見通しを聞きたかった。
平岩報告では、中朝関係が「伝統的友誼」の時代、中韓国交樹立以降の関係悪化の時代を経て、99年以降再び関係改善の時代に入り、金正日の2度の非公式訪中、2001年9月の江沢民の訪朝によって「微妙な関係」の時代になったことが明確になったとの報告があった。これに対し今村は、「江沢民訪朝によって、中朝関係は悪くなるかもしれない『微妙な関係』であるよりは『普通の関係』になったのではないか」とのコメントを行った。またフロアからは「なぜ99年から中朝関係の改善が図られたのか」などとの疑問が呈された。
時宜に適ったテーマであっただけに、フロアからの質疑も活発に行われ、興味深い分科会であった。
分化会 II 海域からのアジア論―琉球・沖縄からの視点 岩崎育夫(拓殖大学国際開発学部)
本分科会のねらいは、沖縄で開催されるのを機会に、これまでのアジア研究の支配的視点である「大陸」や「一国単位」ではなく、国を超えた領域である海域の視点からアジアを捉えること、具体的には海域アジアがどういった構造や特性を持ち、歴史、政治、経済、社会、文化、民族、自然生態など個別の出来事が連携して「一つの世界」を作り上げているのか、沖縄がこれにどう連関するのか考えてみることにあると理解された。
第1報告・浜下武史会員「東アジア一国二制度ゾーンとアジア共同通貨の可能性」は、香港に適用された「一国二制度」は、現代アジア国家の政治・経済・社会の様々な問題に対処できる有効な制度で、今後は台湾や朝鮮半島など他の東アジア地域にも拡大していく、この概念を援用して沖縄も「一国二通貨」制度を導入することで経済発展が見込めるという趣旨の報告であった。第2報告・大城常夫会員「沖縄政策の政治性」は、復帰後の様々な沖縄振興政策は、日米安保体制の維持を真の目的にするものだったことから、いずれも実効性に欠けていた、これに対抗して作られた革新県政の「国際都市形成構想」も現実性に欠いていた、沖縄振興策はアジア太平洋を視野に入れたものであるべきとの議論であった。第3報告・飯島渉会員「衛生と秩序――琉球・沖縄史におけるマラリヤ」は、亜熱帯病のマラリヤがどのように沖縄に伝染し、沖縄行政当局はどう対処したのかという問題の検討を通じて沖縄と海域アジアの関連に迫ろうとしたものであった。
三人の報告に対し二人からコメントがなされ、前泊会員は、世界経済が3極化する中で通貨はどのような意味を持つのか、「アジア共同通貨」は政治主導、それとも経済主導で生まれるのか、最近のイスラム問題がアジアにどのような影響を与えるのかなどの点を指摘した。岩崎会員は、各報告者が海域アジアの領域、形成過程、特性、現代との繋がり、国民国家や国民経済との関連をどう考えるのかなどの点を指摘した。質疑応答ではフロアーの会員から、海域アジアの構成要素に農業も入れるべき、沖縄経済開発の将来展望はどうかといった意見も出たが、浜下会員が提起した「一国二制度ゾーン」の有効性、積極的意義、現実性などに関するコメントが多かった。議論は予定時間を超えて続いたが、それでも時間不足で議論が不消化という印象を否めなかった。
分科会 III インド 佐藤隆広(大阪市立大学)
*石上悦朗報告「インドにおける政府と企業・公企業の政治経済学:中国の経験を踏まえて」は,政府の強い介入を基調とした「ネルー社会主義」の影響を色濃く残していることをインド経済自由化の特徴として捉えた上で,ケーススタディとして繊維産業と鉄鋼業を取り上げ,その問題点を議論した.また,国営商業銀行が依然として「政府・財政のための銀行」の立場を変えず,商工業に対する金融仲介としての役割を発揮できていない点も指摘した.報告では,中国の経験を踏まえながら,多数の統計資料と多角的な観点からインドにおける政府と企業・公企業の政治経済学にアプローチしている.報告に対して,大野昭彦氏は「アドホックで部分的な自由化」をキーワードにして,労働組合の力が強く労働市場に対する規制緩和がなされていないことが,インドの経済自由化の障壁になっている点を強調した.
*清川雪彦・大場裕之・P.C.Verma報告「日系企業のインド進出と職務意識の変化:いわゆる『日本的経営』はインドで受容されつつあるか」は,「日本的経営」の海外への移転可能性とその効果を経済自由化が進展しつつあるインドを対象に,職務意識の観点からその意義を実証的に捉えたものである.日系企業では「日本的経営」が受け入れられ,その結果モチベーションが高く,高い賃金にふさわしい労働生産性が達成されていることを,報告のなかで明らかにした.報告に対して,島根良枝氏は,統計解析に関する技術的な質問に加えて,「日本的経営」の移入が生産性の改善に本当につながっているのかどうか,またその他の要因は考えられないのか,などのコメントを行なった.これに対して,清川氏はつぎのように答えた.日系企業の国際競争力は高く,高い賃金率が高い生産性に対応していると考えるならば,今回の分析結果である「日本的経営」の移入による従業員の高いモチベーションの実現は,日系企業における高水準の生産性と整合的である,と.
*押川文子報告「インドの新中間階層:脆弱な基盤と階層化」は,経済自由化のなかで注目されている「新中間階層」を取り上げ,その消費動向・教育と就業構造・新聞や雑誌などの購読状況などの興味深いデータを紹介した.また,報告では,中間階層の基盤は脆弱であり,それ自身のなかに地域間格差や階層格差を孕んでおり,中間階層論では現代のインド社会の変容を分析する議論としては不充分であり,ミスリーディングであることを強調した.船津鶴代氏は,報告に対して,近代化論・マルクス主義・社会現象としての中間層論,以上3つの立場からなる「アジア中間層論」を紹介し,報告に対して,カーストと中間層の関係と中間層による既存秩序の変化をどのようにみるべきかなどの質問を行なった.質問に対して直接に答えるものではないが,押川氏は,インドでは公共性の喪失がますます深刻化しているとの基本認識のもと,中間層のなかにみられる格差問題の事例として,英語エリート層と地方語エリート層の二極化の進展・学歴競争の拡大と教育格差の拡大・消費ブームが上昇への期待よりもむしろ下降への恐怖心を煽っていること,など幅広い視野から含蓄深い議論を行なった.
*インドの経済自由化の起点を,1980年代半ばでみるか,1991年でみるかで論者で若干の食い違いがあるものの,少なくとも自由化が開始されて10年間は経過してきたわけである.3つの報告を聞き,現段階では,インドの経済自由化は安易な一般化を許すものではないということを,改めて強く感じた.「マクロ」と「ミクロ」に加えて,産業組織や社会階層などの変化を扱う次元すなわち「メソ」レベルで,研究者がそれぞれの研究領域で研究成果を蓄積する必要があると言えそうだ.最後に,インドの分科会としては例外的に他地域の研究者の参加が多く,座長の絵所秀紀氏の采配もあり,質疑応答が極めて活発であったことを付記しておきたい.
<12月9日>
共通論題&国際シンポジウム
新世紀のアジアと日本――グローバリゼーションと広がる国際協調の枠組み
田中明彦(東京大学)
沖縄県の万国津梁館で開催された第55回アジア政経学会の全国大会の二日目の12月9日に、「新世紀のアジアと日本――グローバリゼイションと広がる国際協調の枠組み」をテーマにした国際シンポジウムを兼ねた共通論題の討議が全日にわたって行われた。率直にいって我が学会が新世紀を記念して行うのにまことにふさわしい行事であったと思う。コメンテーターとして参加した筆者がこのようなことをいうのは自画自賛以外の何者でもないが、参加されなかった会員の方には実にお気の毒、大変面白いシンポジウムを見過ごしましたね、というしかない。本稿をお読みいただいても、このシンポジウムの実態の何分の一も味わえません。あらかじめご容赦ください。
それにもかかわらず、あえてまとめてみれば、多岐にわたる議論の中から、三つほどテーマが浮かび上がったというのが筆者の印象である。第1は、9・11事件の意味であり、第二2中国の興隆の意味であり、第3は21世紀におけるアジアという領域の意味である。アメリカに対するテロ攻撃が、国際社会とりわけアジアにどのような影響を与えたかについては、メイン・スピーカーのほとんどすべての人が言及したが、その中で、特にスーザン・シャークさんも王逸舟さんも当面の米中関係が改善することを指摘した。ただしシャークさんによれば、米中関係がこれで根本的に改善に向かうわけではないということであった。より一般的には、9・11以後、アメリカの世界に対する姿勢がどのような姿勢をとるだろうか、という点は林碧?さんが整理してくれた。その後のシャークさんの答えでは、アメリカがアジアにおける多国間の枠組みにより積極的になる可能性はあるが、米政府高官が「地理の暴虐」をものともせずアジアまでわざわざ足を運ぶだけのテーマや問題設定が必要だとも指摘していた。アジアでの多国間対話が単なる「おしゃべり会」であっては、アメリカが積極的に関与するとしても世界中に注目せざるをえないアメリカの指導者の関心をひきつづけることはできないという。クリントン政権で国務次官補代理として東アジア政策を担当していただけに、このような点に実務的困難を感じるのだろうと思った。我部政明会員が沖縄の基地への影響を分析し、在日米軍の役割が低下するのではないかと指摘したのは、論争的であったとともに、きわめて時宜と場所にかなっていた。また、白石隆会員がとりわけ東南アジア諸国のイスラームについて分析し、革命主義的勢力は東南アジアでは弱いこと、にもかかわらず敬虔なイスラーム教徒にとってアメリカへの不信感が強いことなどを指摘してくれたのも有益であった。また、ヤン・C・キムさんの大変丁寧な米朝関係の分析を聞いていると、9・11にもかかわらず北東アジアの一角のこの大問題は、当面あまり肯定的変化が期待できないということがよくわかった。
第2のテーマとして、議論の中心となったのは、中国の興隆をどのように評価するかということであった。王逸舟さんの報告はおもに日中関係をテーマにしたものであったが、その中で、いかにも理論家らしく、国際政治の統合理論や最近の構成主義の理論に言及しつつ日中関係が独仏関係のような展開を遂げる可能性を指摘していた。中国脅威論が説く中国と正反対の方向性を示したのだといえよう。王さんが、「新しい世代」が「古い世代」とは違うのだと何度も強調したところが印象深かった。ただし、中国軍の近代化の進展は、現在ただちには脅威にならないにしても、長期的には懸念を呼ぶとの林さんの指摘も忘れるわけには行かない。王さんは両岸関係については楽観的だと語っていたが、筆者には、両岸関係にはまだまだ紆余曲折があるように思えた。また、「世界の工場」となりつつある中国の意味についてもフロアからの意見も加わり活発な議論があって、大変面白かった。この面では末広昭会員が中国をめぐる貿易関係を分かりやすく分析してくれたこと、中国製品に皆圧倒されてしまうと考えることの短絡性を指摘してくれたことが、筆者には大変参考になった。
第3のテーマだと筆者が思ったことは、アジアという領域の問題である。9・11の結果、日本でもアフガニスタンの動静が日々報じられるようになったが、日々アジアを研究していると称している我々アジア政経学会の会員にとっても、一体アジアとはどこかという問題が突きつけられているのではないか。サンジャヤ・バルさんが、長期の歴史統計などを通して明らかにしてくれたように、アジアといって「東アジア」のみを思い浮かべるのは狭い。インドという巨大な存在と東アジアはどう結びつくのか。さらにまた、中央アジアは。9・11のもう一つの意味は、我々にに巨大で密接に結びついたアジアという概念を再び思い起こさせることにもなったのではないかと思った。
新入会員自己紹介 (順不同)
2002年度春に入会された方々の中から寄せられたご挨拶です。
現代株式会社のコーポレート・ガバナンスの論理 劉 平(福岡大学大学院商学研究科博士課程後期)
日本留学の前、中国で長年日本語の翻訳・通訳を経験し四川省社会科学院に所属していました。学会は初めてです。学会を通じて諸先生・先輩方との学問的交流を広め、自分の研究を充実させることを期待しております。よろしくお願いします。
コーポレート・ガバナンスというテーマは、ここ数年多角的視点からアプローチされ研究されてきましたが、経営学の視点からのアプローチはまだ少ないようです。そこで、@現代株式会社の目的は何であるか、A株主総会が形骸化したのはなぜか、Bいわゆる経営者支配成立の根拠はどこにあるのか。それは株式所有の分散化によるものか、それとも株式会社制度の必然的帰結であろうか、などの問題をめぐって、現代株式会社のコーポレート・ガバナンスの論理を探ろうとします。
コーポレート・ガバナンスは、日本の企業であれ、中国の企業であれ、みな「資本」の論理だけでなく、利潤創出の論理、会社存続・持続的発展の論理、および社会的責任履行の論理にも従ってその構造を編成すると考えます。株主と経営者を対立の関係において株主の経営者への監視を強めることではなく、経営者の個人的利益を株主の利益と一致させる方向でコーポレート・ガバナンスを考えてはいいのではないかと思います。具体的には、中国の企業、日本の企業を研究対象としています。
ご挨拶 王偉彬(広島修道大学法学部)
このたび入会させていただいた広島修道大学の王偉彬です。現在中国政治外交、東アジアの国際政治等の科目を担当しています。こんにちの東アジアの国際情勢は、「ベルリンの壁」の崩壊に象徴される東西冷戦構造の終結が実現したにもかかわらず、朝鮮半島問題や台湾問題及び米中間のイデオロギー的対立が東アジアにおける冷戦の独特な構造のもとに存続しています。こういった東アジアの国際政治の基本的枠組みは戦後半世紀を経てなお変わっていないのであります。このような東アジアの国際政治情勢を背景に、21世紀において中国外交、中・
日・米関係がどう展開されるかに非常に関心を持っています。学会での諸先輩との出会いと交流は勉強の貴重な機会だと思います。今後ご指導のほどよろしくお願い申し上げます。
アジアへの再接近 向山英彦(日本総合研究所)
アジアという言葉にはなにか人の心を熱くするものがある。20年以上も前になる学生時代には、アジアはせいぜいアジア・アフリカ研究の一つとしてか位置づけられていなかった。私も当時、従属論に強い影響を受けていた上、初めて足を運んだのが、マルコス政権崩壊後のフィリピンであったことから、おのずと停滞と貧困という側面に目が向いた。古本屋でみかけた渡辺利夫先生の本が気にはなったが、まったく読む気にもならなかった(追記、後で読みました)。しかし、人生とは皮肉である。10年ほど前から、民間の経済研究所でアジア経済を調査研究の対象としている上、渡辺先生にもご指導を受けている。アジアの高成長もあり、アジアのダイナミズムに目が向かわされた。決して研究とよべるものではないかもしれないが、アジア経済の構造変化、経済発展と中小企業などに関心をもっている。矛盾を内包させつつ、ダイナミックに変動するアジア経済を、自分なりに分析していければと思っている。よろしくお願いします。
ご挨拶 田中 修 (財務省財務総合政策研究所客員研究員)
私は、1996年から2000年まで4年間、北京日本大使館経済部参事官として、中国経済全般の分析を担当していました。帰国後も、中国経済の研究を続け、昨年これまでの研究成果や中国での経験をまとめ、論文「第9次五ヵ年計画から第10次五ヵ年計画へー中国マクロ経済政策の動向分析ー」を当研究所の研究誌「フィナンシャル・レビュー」第56号(3月刊)に発表するとともに、著書2冊「中国第10次五ヵ年計画ー中国経済をどう読むかー」(蒼蒼社7月刊)、「新中国事情」(大蔵財務協会4月刊)を発表いたしました。中国経済の研究を始めてまだ6年足らずであり、会員の皆様に色々とご指導いただくことが多いと思いますので、よろしくお願い申し上げます。
ご挨拶 林 幸司(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
この度入会させていただきました、林幸司と申します。1950年代の重慶における政権構造の変化に関心を持ち、研究を行っています。1949年11月の「解放」後、重慶では「接管(接収・管理)」を皮切りとした人々の再編と改造が強力に推し進められました。このような強力な支配が地域社会に入ってくる際、人々はその状況に応じて、抵抗・服従・参加など様々な選択を行ったと思われますが、このような視点は、主にイメージとしてのみ語られ、史実に裏付けられる形で示されることは多くありません。人々が複合的な条件の下でどのように行動したのか、またそれが政権構造にどのような影響をもたらしたのかという問題を当面の課題としております。会員の皆様には、ご指導、ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。
ご挨拶 清水聡(日本総合研究所調査部)
このたび入会させていただくことになりました清水聡と申します。どうぞよろしくお願い致します。
アジア研究の道に入ったのは、数年前に法政大学夜間大学院(国際開発プログラム)で学んだときからです。若い頃から国際協力に関心を持っておりましたが、大学卒業後に入った銀行では、途上国に関連する業務に携わる機会がありませんでした。
現在はシンクタンクに転職し、アジア各国のマクロ経済や金融システム、および国際金融関係の調査を行っています。特に、途上国の金融部門の発展と経済発展の関係について、今後、研究を深めていきたいと考えております。
まだ研究経験は数年に過ぎませんが、実際の国際協力に役立つ成果をあげることを目標に、研究を続けていきたいと考えています。今後、皆様のご指導をいただければ大変幸いに存じます。
韓国の金融市場 富崎 美穂 (東京大学大学院 総合文化研究科)
「韓国の中小企業金融」というタイトルで修士論文を執筆し、主に経済史的な観点から、未組織金融市場機構も視野に含めた、中小企業をとりまく金融制度、信用保証システムなどに関する構造分析を行いました。
その際得られた韓国の金融システムに関する知識をベースに、現在は通貨危機以後の構造改革について調査しております。目下の関心事は不良債権処理問題です。
グローバル化が進展する中で、地域の独自性を追求することにどれだけの意味があるのか、という意見も時折見受けられますが、私自身は、世界経済システムを、「多様な制度がそれぞれ有機的な形で結びつきあって一つの全体を形作っているもの」と認識しており、かつてはそれぞれ独自の閉じた体系を維持していた個々の制度が、規制の排除や標準化を通じてネットワークの形態を変えつつあるのがグローバリゼーションであるととらえ、その観点の下で、韓国という対象を重点的に取り上げている次第です。
まだまだ若輩者ですが、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
「インフォーマルセクター」の考察 藤環(京都大学大学院経済学研究科博士後期過程)
この度、入会させて頂きました遠藤環と申します。専門は、地域経済学ですが、主にタイの都市開発に関心を持っており、現在は、主にタイにおける都市貧困問題、及びインフォーマルセクター論を研究の対象にしております。「インフォーマルセクター」の議論では、従来の開発経済学の分析に加えて、グローバル化のもとで進行しつつある非フォーマライズ化の過程に着目することも重要と考えています。学部時代の所属が法学部(行政学専攻)であったこととも関係しますが、「フォーマル」と定義されてきた側の役割や境界の揺らぎ/変化といった側面の理解が必要かと考えております。具体的な実態/実証分析を通じて、理論的整理につなげていきたいと思っております。学会会員の先生、先輩方には、ご指導ご鞭撻の程、よろしくお願い申し上げます。
<編集後記>
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21世紀の不吉な幕開けを告げた9月11日の事件から、ようやく半年が過ぎようとしています。前世紀末の冷戦崩壊とともに、アジアを研究するものの座標軸を揺さぶる出来事が続いています。われわれは厳しい選択に直面させられているという、先日の某紙に掲載されたE・W・サイードの言葉は痛切です。
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揺さぶられているといえば、「聖域無き改革」の波は本学会にも及び、前理事長の下で大幅な改革が進められました。会員諸氏が働く大学や研究所などの諸機構にも、改革の波が押し寄せています。編集子がその任期を終える頃には、会員の仕事の環境も様変わりしているかもしれません。われわれを襲った通信環境の激変について言えば、もはや峠を越したというべきかもしれません。
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座標軸は揺さぶられ、通信手段は革命を強いられ、仕事の環境は変わろうと、日本におけるアジア研究のインフラの重要な柱の一つとして働き続ける、という本学会の使命は変わりません。その昨日を維持しつづけること、そのことそのものが挑戦への応答でもあります。そんなこんなで、本学会は、来年創立五十周年を迎えます。
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*今期業務担当理事一覧
理事長=石井明(東京大学);総務=高原明生(立教大学);研究=末廣昭【東日本担当】(東京大学)、佐々木信彰(大阪市立大学)【西日本担当】;編集=加藤弘之(神戸大学);広報=若林正丈(東京大学);国際交流=国分良成(慶応大学);財務=加納啓良(東京大学);50周年記念事業=古田元夫
アジア政経学会ニュースレターNO.17 2002年3月1日発行
発行人 石井 明
編集人 若林正丈
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