《ニューズレター13号》

大会予定 お知らせ

東日本大会 東京女子大学 5月27日(土)
(実行委員長 滝口太郎会員)
西日本大会 広島経済大学 6月10日(土)
(実行委員長 片岡幸雄会員)
全国大会  拓殖大学 11月初旬
(実行委員長 渡辺利夫会員)

2000〜2001年度 新役員決まる

◆1999年10月30日(全国大会)の第2回定例理事会で、2000〜2001年度の常務理事が決まりました。一方、理事選挙は、99年8月に評議員218名に対して投票用紙を送付し、149名の方が返送、うち145名の投票が有効でした。投票の結果と東日本・西日本のバランスの2つをもとに、「理事」44名(東日本33名、西日本11名)を決定し、さらに10月30日の理事会で、「常務理事」24名(東日本16名、西日本8名)と「監事」2名を選出し承認されました。なお、選出された理事は44名のうち11名が新しい方です。リストは巻末の役員一覧をごらんください。

◆次いで、10月31日の新常務理事による99年度第4回常務理事会で、天児慧常務理事が新理事長に選出されました。天児氏は、総務、財務、研究の業務をそれぞれ担当し、今回の全国大会の組織委員長でもありました。そして、12月末に業務担当候補者が集まり、翌2000年1月22日の第5回定例常務理事会で、正式に7名の業務担当理事が承認されました。なお、この日の常務理事会は24名中17名が出席、委任状5名を加えると22名の出席という例年にない出席率で、みなさんの意気込みが強く感じられました。業務担当理事のお名前と分担は次のとおりです。理事長を含めた8名の平均年齢は49歳です。若返り現象ですが、反面、大学でもっともこき使われる年齢層が集まったとも言えそうです。(文責 末廣昭)

理事長 天児 慧(青山学院大学)
研究担当(全国、東日本) 石井 明(東京大学)
研究担当(西日本) 佐々木信彰(大阪市立大学)
国際交流担当 国分良成(慶應義塾大学)
編集担当 古田元夫(東京大学)
広報担当 若林正丈(東京大学)
財務担当 加藤弘之(神戸大学)
総務担当 末廣 昭(東京大学)

 

 

理事長就任にあたって
                       天児慧(青山学院大学)

◇アジア政経学会会員の皆様、新しい年を迎え、気持ちも新たに日々ご活躍のことと拝察いたします。さて私こと、昨年10月の学会全国大会での常務理事会におきまして、理事長に就任するようおおせつかりました。私自身、気持ちの上でも体力の上でもまだまだ「若手研究者」だと思い、日々切磋琢磨することを課題としております。しかも人格・業績など理事長にふさわしい尊敬する先輩諸先生がなお幾人もおられる中で、このような重責を担うことにはいささかの躊躇いと、大いなる不安がありますが、これも1つの「天の声」と思い、謹んで引き受けさせていただくことに致しました。
◇皆様ご承知のように、1953年に財団法人として設立されたわが学会は、会員数の上でも学会としての研究活動の上でも、ここ数年来飛躍的に発展しております。近年、いわゆる「ゆうれい会員」を大幅に整理したにもかかわらず、現時点で会員数は1100名に近い規模になっており、地域研究学会としてはわが国最大の学会であります。さらに、国際的な学界の間でも注目されるようになり、特にアジア太平洋地域のアジア研究諸学会から研究・学術交流促進の要望が高まっております。昨年韓国の北東アジア経済学会との学術交流強化が正式に決定され、昨年秋の全国大会には2名の関係者を招待し、今年2月にはわが学会から2名の会員を先方の研究大会に派遣するようになりました。
◇こういった状況はいうまでもなく大変喜ばしいものでありますが、執行部の業務体制が近年大幅に増大し、煩雑になっており、業務担当理事の心労と負担を増やしているのが実情であります。また昨今の政府行政改革絡みで財団法人の「整理・見直し」の波もあり、わが主管部局の外務省中国課からも、早速にしっかりした業務体制の確立と財団法人として社会貢献に努力するよう強く要望された次第であります。
◇したがいまして、新執行部の任務は、この間の学会の質量あわせた「持続的発展」のペースを維持しつつ、手工業的な従来の業務体制を第3セクターへの移管を視野に入れながら抜本的に改め、さらにアジアの中の「アジア政経学会」を目指すべく、情報化、国際化を一段と進めて行く、そうした「土台作り」にあると考えます。昨年暮れに発足した新執行部はすでにこうした点で、積極的な取り組みを開始しております。会員名簿管理体制、会費納入・チェックや補助金確保などの財務体制、学会誌・ニューズレターの編集・発送など編集業務体制、「若手研究者」への成果報告の機会拡大などを含む研究会活動体制の見直し、学会ホームページの立ち上げなどが、これらの主な内容となっております。
◇このように考えますと、結構大変な仕事を引き受けてしまったとの感が否めませんが、わが学会の中でアジア研究者として育てられ、アカデミックな交流の機会を与えられてきた私としましては、「愛する学会」の発展のために全力を尽くして努力する所存でございます。会員の皆様が、上記のような学会の事情をご理解の上、「明るく、楽しく、質の高い学会」を築くよう、未熟者の私および新執行部にご支援、ご協力、ご叱咤を賜りますよう、何とぞよろしくお願い申し上げます。(2000年2月2日)

 

月例研究会の充実化を!
                  石井 明(研究、東日本研究担当理事)

 会員数の増加に伴い、学会での報告の機会がなかなか持てない会員の割合が増加しています。分科会の数を増やすことも考えられますが、月例研究会の回数も増やしていきたい、と考えています。東日本大会、全国大会の開かれる月は別にして、年間6回程度は開いて、会員の切磋琢磨の場にしていきたい、と思っています。1回につき、お二人の会員に報告していただきますので、年間10名を越える方のお話しを聞けることになります。報告は30分、コメンテーターのコメントが10分、残りの時間で質疑応答。またときには、たまたま日本におられる海外の研究者の報告をうかがう機会をつくりたい、と思っています。

 

年代、研究領域を越えた学術研究交流を!
                  佐々木信彰(西日本研究担当理事)

編集担当、財務担当の仕事をへて、今期から研究(西日本)担当をおおせつかりました。前任者の北原淳先生(名古屋大学)のひかれた路線を踏まえながら、学会会員の相互の研究交流の促進、研究会活動の活発化のために微力を尽くしたいと思います。なにぶん不慣れではありますが、よろしくお願い致します。すでに実施されている月例研究会の複数回のブロック別(例えば、九州地区、京阪神地区、中京地区など)の開催、大学院院生の修士論文報告会の開始など、研究者の年代を越え、また研究領域を越えた学術研究交流の促進につとめたいと思います。研究交流促進のうえで参考になるアイデア、ご提案、ご要望がございましたら、ご連絡いただければ幸いです。

558-0022 大阪市住吉区杉本3-3-138
大阪市立大学経済学部 佐々木信彰研究室
電話 06-6605-2296、ファックス 06-6605-2256

 

国際交流担当理事より
                  国分良成

◇これまで総務担当理事として、学会の事務全般を扱ってまいりましが、今期は国際交流を担当させていただくことになりました。

◇本学会は近年、かなり意識的に国際交流に力を入れてまいりました。一昨年の京都大学での全国大会では、北東アジアの安全保障に関するパネル討議が海外からのゲストを交えて開催され、昨年の青山学院大学での全国大会は、周知のように中国建国50年に関する巨大な国際シンポジウムになりました。こうした大会以外にも、オーストラリアのアジア研究学会や韓国の北東アジア経済学会との交流、あるいは『チャイナ・クオータリー』誌への投稿促進に関する取り決め等が、具体的に進められてまいりました。
◇今後とも、このような規定路線を維持・拡大しつつ、さらに新たな国際交流の場を設定してまいりたいと考えます。ご意見、ご要望等ございましたら、お気軽にお知らせください。何卒、よろしくお願い申し上げます。

 

財務の仕事は2つ!
                 加藤弘之(財務担当)

学会の財務の仕事は2つあります。
ひとつは信頼できる金庫番になること。他の業務担当理事の要求にしたがい、必要な支出をタイムリーも行なうことです。いま一つは、借金の取り立て。会員への会費請求を遅滞なく実行し、財政基盤を安定させること。会社で財務担当といえば重要ポストですが、学会の財務担当は、正真正銘の裏方仕事です。会員の皆様、会費納入にご協力をお願いします。

 

学会事務の統合と改善
                 末廣 昭(総務担当理事)

寝ても覚めても「名簿管理」の4年間でした。「広報担当の事務から解放され、総務担当に移りました」と言いたいのですが、どうも簡単には行かないようです。とにかく年間60から70名、新規会員が加わり、100名以上の会員について住所、所属先の変更が起こるというすさまじい学会です。発送業務もこれまでは総務、広報、財務、編集、大会主催校などで行なわれていました。原則的に広報担当が最新の宛名シールの作成に協力してきましたが、会員数が1100名に近い現在、すでに「家内制工業」では対応しきれません。なんとか、発送作業などの事務の統合、効率化、一部外注化に目鼻をつけて、仕事を引き継ぎたいと思っています。また、できるだけ会員にとって有益な新しいスタイルの「会員名簿」(国別、専攻別の研究者要覧)を5月めどに編集したいと思っています。会員アンケートへのご協力、よろしくお願い申し上げます。

 

<第53回全国大会概要>
◆アジア政経学会は平成11年10月30ー31日に第53回全国大会を青山学院大学総合研究所ビルにおいて開催した。今回は従来のスタイルをやや変更し、「共通論題」としては、建国半世紀を経た中華人民共和国を内と外から分析した、「建国50年の中国とアジア世界」と題するテーマを扱い、14名の著名な外国人研究者も招聘した大規模な国際シンポジウムとなった。同時にこれは、参加者の大多数がわが学会会員であった、文部省科学研究費特定領域研究「現代中国の構造変動」プロジェクト(代表:毛里和子、平成9年4月〜同11年3月)の成果報告の意味も付加され、文部省、外務省、国際交流基金アジア・センターなどの助成を受けた。全体の参加者は、当初予定の300名を上回る350名と、きわめて盛況であった。
◆第1日目は、3つの自由論題報告の他に、3つの共通論題をめぐって議論が交わされた。午前は論題1「アジア諸国の国民形成と国民統合」、午後の論題2「アジア通貨危機その後」、論題3「中国における国家と社会」である。
◆論題1では、D.L. Sheth氏(Center for the Study of Developing Societies、India ) を招き、日本側から西村成雄(大阪外国語大学教授)、金子芳樹(松坂大学教授)両会員が報告し、さらに初瀬龍平(神戸大学教授)と首藤もと子(駒澤大学教授)両会員がディスカッサントとして討論に参加し、時代と地域からその多様性が論じられた。
◆論題2は、韓国・慶星大学の呉勇錫氏、中国・社会科学院アジア太平洋研究所所長の張蘊嶺氏、John Wong氏(East Asian Institute, Natonal University of Singapore)を招き、日本側から深川由起子会員(青山学院大学助教授)が報告者となり、佐藤幸人(アジア経済研究所研究員)、安場安吉(大阪学院大学教授)の両会員がディスカッサントとして加わり、昨年秋の全国大会共通論題の「続編」として、より掘り下げた議論が展開された。
◆論題3は、 鄭永年氏(National University of Singapore)、台湾・中正大学の林佳龍氏を招き、日本側から唐亮(横浜市立大学助教授)、菱田雅晴(静岡県立大学教授)の両会員が報告し、国分良成会員(慶応大学教授)がディスカッサントとして参加した。欧米型、他のアジア型などの国家・社会関係を視野に入れながら、中国型についての議論が展開された。
◎第2日目は、「特別シンポジウム」として建国50年の中国を、午前には「外交と国際環境」、午後は「改革開放と構造変動」というテーマで議論を進めた。
◆午前の部では小島朋之理事長(慶応大学教授)がまず大国化する中国の外交問題についての問題提起を行い、中国・社会科学院米国研究所の牛軍氏、David Lampton氏(Johns Hopkins University)の報告に加えて岡部達味会員(専修大学教授)が、中国、米国、日本の観点から中国外交を論じ、さらにRobert S. Ross氏(Boston College)、中国・上海国際問題研究所の陳啓懋氏、渡辺昭夫(青山学院大学教授)の各氏が、それぞれの観点からコメントを行った。
◆午後の部では、毛里和子会員(早稲田大学教授)が改革開放による構造変動をめぐる問題提起を行い、Andrew J.Nathan氏(Columbia University)、中国・科学院国情研究小組の胡鞍綱氏、中国・北京大学の李景鵬氏に加え、加藤弘之会員(神戸大学教授)が政治、経済、行政などの視点から報告し、中国・北京大学の徐湘林氏、中兼和津次会員(東京大学教授)のそれぞれが、ディスカッサントとして議論に参加した。各セッションともフロアーからの質疑応答を含め、きわめて活発な議論が展開され、従来のわが国における国際シンポジウムには見られない質量とも極めて充実したシンポジウムとなった。(文責・天児慧)

「東北タイにおける住民運動と『農地』問題」−傍聴記                          加藤和英(九州国際大学)

◆10月30日、三好会員より「東北タイにおける住民運動と『農地』問題」というテーマのもとで報告がなされた。三好報告は、「イサーン小農民会議」と「貧民フォーラム」という2つの住民活動団体を事例として取り上げ、農地問題についてどのような論理で、どのような要求がなされてきたのかを検討するとともに、国家の土地管理制度について、法制度と生活用地分配事業の展開を考察するものであった。
◆討論者である東茂樹会員より、東北タイにおける住民運動と農地問題との関係について、住民運動の圧力の結果、政府が農地改革を進めているのかどうか、両者の関係を具体的に明らかにする必要があるとのコメントがなされた。また、フロアーからは、山本博史会員が、政治と住民運動の関係について、東北タイという地域は選挙における票田であり、票をまとめるために住民運動が起きたという側面があったのではないのか、との指摘を行った。他方、三好会員よりは、農村社会における民意の形成という点に注目したいとの返答がなされた。
◆報告と討論を通じて、発展途上国における住民運動の展開と、社会改革の進展の問題を関係づけて捉えることの難しさを痛感した。なぜならば、住民運動の結果として改革が進んだのか、運動とは無関係に国家の側から主体的に取り組まれた結果なのか、あるいは、両者の側面をもつのか、という点を含む考察の必要性があるからである。また、運動自体が政治的に利用されている場合は、運動そのものの性格が問われなければならないし、住民運動の内容と社会改革の状況を、直接的に結び付けて議論することは難しいのではなかろうか。

 

西日本部会定例研究会の報告

◆さる99年11月26日(金)、大阪市立大学文化交流センターにて、99年度西日本定例研究会が開かれ、とくに関西大学に客員教授でみえている北京大学法学部、徐湘林助教授にも報告をお願いすることができ、約40名の参加者があった。以下はその報告の要旨である(西日本研究担当 北原 淳)

 

農村基層選挙と中国の民主化
                     徐湘林(北京大学)

◆中国の農村基層に対する政府の管理体制は、改革・開放による人民公社解体後、一種の機能不全に陥っていた。そのような状況のなかで、村民自治と村民選挙、すなわち「村民委員会」の組織化、その構成メンバーの直接選挙、という代替的な集団管理方式が、村民により自発的に行なわれるようになってきた。その結果、1997年3月には、全国93万の村(全体の約80%)で、村民委員会の直接選挙が普及するにいたった。
◆このような急速な普及の背景には、中央政府指導層が村民自治・直接選挙を農村基層の政治的な安定に有利な制度であると理解し、積極的に支持してきたということがある。改革・開放以来、財政の地方分権化が進むなかで、地方行政単位の財政収入拡大のインセンティブと、農民の自己利益との間に深刻な対立が生じ、行政コストが増大してきた。そのような増大した行政コストを引き下げ、安定させる手段として、村民自治制度は重要かつ不可欠なものであった。
◆また、98年には四川省遂寧県中区歩雲郷で、全国はじめての郷政府(末端の行政単位)の首長選挙が行なわれた。この選挙は法的な裏付けをもつものではなく、また中央政府から黙認はされたものの、積極的な支持は得られなかったが、一部マスコミで大きく報道されるなど、全国で活発な議論を引き起こした。
◆農村基層における直接選挙の実施により、逆に選挙による信認をうけていない村共産党支部書記の地位が相対的にゆらぐなど、党の行政指導力に関する問題も生じている。また、農民の収入増大や農村行政の安定化という視点からみても、単なる自治組織である村民委員会の影響力は限られており、今後はむしろ郷政府の指導者層の合法性が問われていくものと思われる。
◆海外の一部のメディアには、村民自治・直接選挙の実施を、中国の民主化の突破口であるとし、その意義を強調するものも存在するが、そのような見方は浅薄にすぎよう。農村基層における選挙制度の改革は、中国の民主化にとって、ほんの一段階にしかすぎず、その影響力もいまのところごく限られたものであると思われるからである。
(要約 梶谷 懐)

 

マレーシア工業化の現段階
                     櫻谷 勝美(三重大学)

◇アジア通貨危機のマレーシア工業への影響は如何という問題意識をもって、99年11月にローカル企業5社と日系企業3社の聞き取り調査を行なった。聞き取りを行なったローカル企業のなかで特に印象に残ったT社の成長の軌跡を追うと、80年代前半に日系精密機械メーカーの技術指導でプラスチック成型をはじめ、90年代に他の日系メーカーの技術指導を受け金型製造に乗り出し、また別の日系メーカーのOEM生産も手掛けた。最近ノルウェーの携帯電話部品メーカーと合弁企業を起こし、欧州のきわめて精巧で短期大量生産可能な金型製造技術と機械を導入した。
◇T社は、複数の多国籍メーカーの仕事をこなしたことから、組立工程の上でも各社の工夫を取捨選択し、また欧州企業からは大量生産のノウハウを取り入れ、多様な取引企業の技術指導と品質チェックをクリアすることで成長した。その意味では、取引先の仕様要求をこなすことで、新たなノウハウが育つ土壌がマレーシアに生まれつつあるのではないかと感じた。
◇他方、通貨危機対策として、98年9月にマレーシア政府が行なった資本流出規制に対して、最も敏感に反応したのは日本の企業であった。MIDA(工業開発庁)の国別外国投資認可額は、97年にアメリカが39億リンギ、日本が32億リンギだったのが、98年にはアメリカが65億リンギに倍増したのに対して、日本は3億リンギと激減した。この数字を裏付けるように、現地日系企業関係者は資本流出規制に好意的反応が多かったのに対し、日本の本社はマレーシアの資本流出規制にきわめて警戒的だったとのアンケート調査の結果がでている。マレーシアではローカル企業と多国籍企業のリンケージはさらに進んでいるが、日系電機産業の存在は相対的なものになりつつあり、マレーシア政府も企業も、多国籍企業を巧みにコントロールしている。ただ競争者として中国の影が意識され始めていた。

 

義序研究に宗族制度と中国政治文化の関係構造の探求を
       阮雲星 京都大学大学院法学研究科、中国農村社会論、政治文化論)

◆私の研究テーマは、中国農村社会論である。福建省・福州市の近郊にある「義序」という村落のケース・スタディを通して、かつての「宗族郷村」(「同族」村)を追跡研究しながら、近・現代中国農村社会を、権力構造とエートス及び両者の関係構造という側面から解明しようと考えている。さらに、その延長線上に中国政治文化、すなわち、中国社会における「政治優位」と家族主義との関係構造という問題を論究の射程に入れて、それを主に基層・構造基盤の視点より探求したい。
◆義序には貴重な人類学的先行研究がのこっている(林耀華、1935,1936)。その研究成果の一部は、のちにM・フリードマンが提起した宗族モデルの裏付けの一つにもなった。M・フリードマンの宗族理論は、機能主義を極め、かつそれを超越しようとする試みとして、人類学によって複合文明社会とされる中国の研究において重要な成果を収め、その後、日本の学界にも大きな影響を与えてきた。しかし、「安楽椅子・人類学者の沈思黙考」による研究の限界などの原因によって、その宗族モデルにおいて、宗族の基礎構成要素としての漢族親族体系・系譜観念を見落としたことが指摘される。そのような宗族理論においては、宗族をより総合的本質的に把握する上で、ひいては中国政治文化を基層構造より読み解くために、一体どのような問題が残り、どのような障害が生じるのか、これは私の義序研究における重要な理論作業の一つである。
◆1995年以来、私はフィールドワークやライブラリワークを通じて、主に義序の家族・宗族構成構造、「祠堂会」・農村のリーダーシップ・村選挙、地域社会史や人類学における親族・宗族研究を進め、政治人類学、歴史社会学などの分野(論題)において実証的理論的な研究を行ってきた。目下、補足調査などの研究をしながら、今までの諸研究をまとめて、民国期以降の義序を中心に、家族・宗族と地域政治社会についての学位論文を完成させたいと考えている。
 ご指導の程どうぞよろしくお願いします。

 

マラッカ海峡からみた東南アジア
                  吉田典巧(マレーシア経済史・マレーシア経済論)

◆東京外国語大学で第1期生として、マレーシアを専攻したのが縁で、大学を卒業し、民間企業に就職したにもかかわらず、マレーシアの研究を続けております。今回、恩師の小野沢純先生のご推薦により、入会させて頂くこととなりました。小野沢先生には、サイド・フシン・アリ編著『マレーシアー他民族社会の構造』(勁草書房、1994年)を共訳させて頂きました。
◆私の研究のメインテーマは、マレーシア経済史で、紀元前以前のマラッカ海峡を挟むマレー半島・スマトラ島の経済から、現在のマレーシア経済までを「リンケージ」で考えていこうというものです。特に、古代から変わらない、交易大きく依存する経済体制を、歴史的・政治的・地理的背景から考察していこうというものです。最近頻発するマラッカ海峡における海賊事件も、古代から続くマラッカ海峡の海賊(Orang Laut、海の民)活動からの流れで見るのも、ひとつの研究課題です。
◆また、アジア通貨危機を、民間製造企業の海外オペレーションの一担当として経験し、その対策にも取り組んだ経験から、90年代初頭の企業のグローバル化、95年の超円高や97年のアジア通貨危機への製造業全般の対応についても、サブテーマで研究していきたいと思っています。この点から、第53回アジア政経学会全国大会における「共通論題2:アジア通貨危機その後」は、大変興味深く聞くことができました。
◆今年は、APECビジネス諮問委員会(ABAC)活動にも関係し、環太平洋の民間活動やAPECにおける官界の活動についても触れる事ができ、大変視野を広げることができました。特に、WTO新ラウンド交渉を控え、大変緊迫した議論は、勉強になりました。
◆異色の自称「マレーシア研究家」で、アフター5と週末の限られた時間しか研究に割けませんが、アジア政経学会の入会を機に、もう少し理論的に学術的なアプローチでの研究方法を学び、研究成果を発表していきたいと思っています。ご指導ご鞭撻頂きますよう宜しくお願い致します。

 

雑多なアジアを読み解くために・・・
                 吉冨拓人(横浜国立大学国際開発研究科 中国経済)

◇先日、大学院生のゼミの忘年会ということで、私の指導教官である木崎翠先生のお宅を訪問してきました。集まったメンバーは、木崎先生とご主人の鳥居先生、そして院生6人(日本人4人、中国人1人、マレーシア人1人)の合計8人です。夕食会は、ご夫妻が協力してつくられた無国籍な料理(どれも、ばつぐんにおいしい!)をビュッフェ形式でいただきながら、脈絡のないおしゃべりが続き、そのトピックスは、お酒や料理の話から、文化、宗教、教育、経済、開発独裁、戦争論まで多岐にわたりました。
◇文章で目にしていて自分では理解しているつもりのことも、その国の人に直接話しを聞き、話し合うことで理解が深まります。アジアの抱えている問題は、まさに雑多です。文化、宗教、政治体制、経済システムが、それぞれの地域の特徴をもっているということを理解したうえで、アジアという地域を読み解いていかねばならないということを改めて実感しました。
◇アジア政経学会は、雑多なアジアをさまざまな視点からみつめてきたプロパーの集まりであると聞いています。今後とも、この学会の果たす役割は非常に大きいことと思いますが、その中で議論に加わることが許されたことをとてもうれしく思いますし、この機会を最大限利用したいと考えています。
◇ところで、私自身の研究についてですが、これまでは中国の産業技術政策を中心に勉強してきました。現在は、中国の地域間格差、郷鎮企業、産業政策などに興味がありまして、それらを関連づけて研究を進めていこうと考えています。ご指導のほどよろしくお願い致します。

 

 タイ農村社会と住民運動
       三好 知信(大阪市立大学大学院経済学研究科、タイ農村社会経済論)

◆私は修士課程以来、タイにおける農村住民運動を研究の対象としてきました。これまでは住民運動側の要求項目や運動形態、ならびに運動が依拠していると考えられるその正当性を中心に、考察を進めてきました。ここ最近は、住民運動の中で大きな争点となっている国有地における土地問題について、農地改革制度との関連で考察を進めています。この課題を通じて私が理解できたことの一つは、近年のタイにおける農地改革は、農業発展に積極的に寄与する土地制度の改革ではなく、むしろ社会保障的な側面の強い国有地の割当てに過ぎないというものです。監督官庁はあくまでも農地改革事務所が担っていますが、その中身はむしろ、1940年代から行われてきた生活用地分配事業と類似点が多いのではないかという点です。
◆さて、以下ではもう少し大きな枠組みで私の関心について述べたいと思います。それはタイ農村社会における資本主義の発展、あるいは市場化の問題です。今日までにこの課題については多くの研究蓄積があるのですが、その中でも私自身は農村社会の世帯(屋敷地共住集団等も含めて)を中心とした「組織」が、外部の諸変化に対して如何に対応してきたのか(あるいは取込んできたのか)、という側面に関心を持っています。ここで重要な要因の一つが労働市場の発展です。そのため、例えば農民層分解が比較的進んでいる中部タイとそうでない東北タイとの間には当然、市場化への対応の表われ方が、世帯の再生産活動レベルで差異をもたらしていると考えられます。このような考えの基本には、農業部門と非農業部門の均衡の上で、農家世帯があくまでも存続しているという視点があり、世帯における農業生産活動の位置を相対化できると考えています(特に東北タイ地方)。
◆まとまりの悪い自己紹介ですが、研究上のまとまりのなさはまだまだ続きそうです。学会での交流を通じて、少しでも形あるものに仕上げていきたいと思っています。宜しくお願いします。

 

台湾における環境教育政策
            萩原 豪(学習院大学大学院博士課程)

◇この度、入会させていただきました萩原豪と申します。学習院大学大学院政治学研究科の博士課程に在籍し、日本と台湾の環境政策の比較研究を行っております。現在は、財団法人交流協会日台交流センターの「1999年度歴史研究者交流事業日本人派遣者」として、台湾台北市において研究活動を展開しています。
◇学部時代、社会心理学敵視点から、原子力および核拡散など危機管理に関する問題について学びました。大学院進学の際、アジア諸国との比較研究を志し、台湾に関する研究を始めました。修士・博士課程を通じて、台湾における原子力問題を中心とした環境教育政策に関する研究を行っております。
◇資源小国であり、原子力保有国である台湾では、エネルギー・セキュリティに関する政策策定において、日本を多分に参考にしています。これは公害対策を始めとする環境対策についても同様のことが言え、環境政策の基本体系は日本を参考にして策定されています。
◇日本人研究者が台湾の環境政策を研究することは、日本の環境政策がアジアのモデルと成りうるかを検証する意義を持つと考えられます。しかし残念ながら、日本においてそのような研究報告例は非常に少ないのが現状です。今後は自らの研究成果をアジア政経学会において報告していくことを目標とするとともに、環境研究という一学術領域にとどまらず、学際的な立場から、アジア研究の中でも環境問題に注目した研究の一助となるように努力していきたいと思います。
◇アジアの地域研究についてはまだ新参者ではありますが、本学会を通じて国内外の様々な研究者の方々から御指導をいただきたく存じますので、今後とも御教示の程、よろしくお願い申し上げます。