■ご挨拶:「中堅時代」のアジア政経学会――いっそうの発展をめざして

東京大学 丸川知雄

 このたびアジア政経学会の理事長という大役を仰せつかり、果たして自分に務まるのか不安でいっぱいです。ただ、幸いにも一般財団法人への移行という大仕事はこれまで数代の理事会でしっかりと完成していただきましたので、私は学会というプラットフォームを会員の皆様が存分に活用してそれぞれの研究を発展させていただけるよう舞台の整備に静かに汗をかいていこうと思います。会員の皆様のご指導、ご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
 アジア政経学会は1953年に財団法人として設立されてから62年を経過し、還暦をすぎたということになるわけですが、これまで私が大会の企画運営や学会誌『アジア研究』の編集の仕事を通じて感じているいまの学会の平均的な「体力年齢」、つまり学会発表や学会誌での論文発表を行っている活動的な会員の中央値は6〜10年前までは「若手」だったのが徐々に「中堅」に移行してきているような感触を持っております。(ここで「若手」や「中堅」にカギ括弧をつけているのは、これらが必ずしも自然年齢を指すものではなく、むしろ研究者としての経歴を指しているからです。)客観的データによってそのことを論証する余裕はありませんが、少なくともそのように理解すれば、いま学会で起きていることを理解し、有効な対策を立てられると思います。
 「いま学会で起きていること」の1つとして、『アジア研究』への自由投稿の減少が挙げられます。2005年から2009年ぐらいまでは年間25〜29本ぐらいの自由投稿がありました。ところが最近では年17-18本ぐらいです。学会誌は年4号刊行し、1号につき4本ぐらいの論説、研究ノートを載せないとさまになりませんので、自由投稿だけで刊行を維持しようとすると投稿された論文をほとんど全部掲載しないと維持できない計算になります。
  学会の大会での自由論題への応募も減少傾向にあり、しばらく前までは毎回何人かは報告をお断りせざるをえないこともありましたが、最近では応募締切日になっても応募数が少なくて再募集をかけることが常態化しています。
 これは学会会員の研究活動が不活発になってきたことを示すのでしょうか。あるいは大会の運営、学会誌の編集に何らかの問題があるのでしょうか。これらの仮説を排除できるようなエビデンスを持っているわけではありませんが、私の直感では会員の研究活動はますます活発化しているし、アジア政経学会の大会運営や学会誌編集の体制は、私の関与している他の学会に比べて整っているように思います。
 私がもっとも有力だと考える仮説は次の通りです。6〜10年前までは活動的な会員の中央値が若手だったので、それらの会員は学会報告、学会誌での論文掲載などに一生懸命取り組んで研究実績をあげようとしていた。そうした若手研究者が努力を認められて准教授や専任講師として就職することに成功したために投稿や報告の応募が減ったのではないだろうか? 
 このように理解しますと、学会を活性化していくには投稿の増加や自由論題応募の増加を待つばかりではなく、別の方策も考えていく必要があるということになります。
 そうした方策としては、学会大会ですでに始まっている試みとして「自由応募分科会」が挙げられます。この仕組が始まったのはつい数年前のことですが、2015年の立教大学での全国大会では4つの分科会を数えるまでになっています。中堅になった会員の研究プロジェクトの受け皿として今後もぜひ活用していただきたいものです。
 学会誌においても、自由投稿は引き続き重視する一方で、今後はむしろ大会の分科会などをもとにした「特集」を学会誌の柱に据えていくべきではないかと思います。私は2014年6月から1年間編集委員長を担い、とにかく刊行の遅延を解消したいという一念で特集を毎号のように作りましたが、次第に中堅の会員を軸とする、テーマが一貫した特集が増えてきて、編集の作業が楽しくなりました。特集を増やすことで結果的に中堅会員の力を学会誌に動員することができたのです。
  自由論題応募や投稿の減少という側面だけをとらえてしまうと何だか学会が衰退しているみたいな寂しい印象がありますが、むしろ学会が「中堅時代」に入ってきたのだ、と前向きにとらえることができるのではないでしょうか。
 「中堅時代」に入ったアジア政経学会の課題として、国際的な活動の強化が挙げられます。過去数年の間に、アジア政経学会はドイツアジア学会との交流、韓国インチョンでのAsian Economic Community Forumでのセッション開催、台北での中央研究院社会学研究所等との国際シンポジウムなど海外での活動を行ってきました。これからもっと中堅や若手の会員をこうした活動に巻き込んでいきたいと思っております。
 さらに、国際観光でもインバウンドの観光客が注目されていますが、学会活動においても海外から大会での報告申請や学会誌への投稿が来ると予想されます。アジア政経学会の場合、会員サービスが国内の会員中心であるため事実上「日本のアジア政経学会」となっていることは否めません。しかし、それぞれの母国に戻った元留学生を核にして学会に参加する研究者の輪をアジアなどに広げていく可能性は大いにあるのではないかと思います。学会を「アジアのアジア政経学会」「世界のアジア政経学会」へ向けて発展させていくために何ができるのかをこれから会員の皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
 アジア政経学会では2015年6月に「倫理綱領」を定めました。差別やハラスメント、著作権侵害をしてはならない、という教育者・研究者として当然の倫理を求めるものですが、学会の活動のなかでもそういうことが起きないように注意を喚起していきたいです。

 

 最後になりますが、理事長として、学会の実務に携わる方々のワーク・ライフ・バランスにも心を配っていきたいと思います。アジア政経学会はオフィスに集まって仕事しているわけではないので仕事時間の管理はもとより不可能なのですが、それにしても学会活動はボランティアで成り立っているのに、何となく仕事のような顔をして学者の時間を横合いから奪っていく印象があります。とりわけ、アジア政経学会は「一般財団法人」であるために学者に慣れない仕事を強いる面があります。私は、学会の活動が会員の誰にも犠牲を強いることなく、みんなの研究・教育にとってメリットのみがある場になってほしい、会員の人生のプラス要素となってほしいと願っております。

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